米国ケンタッキー州北部が、電気機器製造業の新たな集積地として注目されています。地域経済開発組織が主導するこの動きは、単なる企業誘致に留まらず、強靭なサプライチェーン構築を目指す戦略的な取り組みであり、日本の製造業にとっても多くの示唆を含んでいます。
ケンタッキー州北部が目指す産業集積
米国の地域経済紙「Lane Report」によると、ケンタッキー州北部は電気機器製造業にとって「実用的で高性能な立地」として、その存在感を高めています。この地域は、Boone、Kenton、Campbellの3郡からなり、地域経済開発組織「BE NKY Growth Partnership」が中心となって、関連企業の誘致や産業エコシステムの形成を積極的に推進しています。特定の産業分野に的を絞り、地域全体で競争力を高めようとする戦略的な動きと言えるでしょう。
立地の優位性と戦略的な取り組み
ケンタッキー州北部が製造拠点として評価される背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、地理的な優位性です。同地域は米国中西部に位置し、主要な消費地や産業地帯へのアクセスが容易な物流の要衝です。世界的な物流大手DHLの航空貨物ハブがあることからも、その利便性の高さがうかがえます。迅速かつ効率的な部品調達や製品供給が可能な点は、今日のジャストインタイム生産や短納期要求に応える上で大きな強みとなります。
また、単に物流網が整っているだけでなく、既存の産業基盤や熟練した労働力の存在も重要です。特に自動車産業をはじめとする製造業が集積している歴史があり、ものづくりに適した人材やサプライヤー網が既に形成されています。BE NKYのような組織は、こうした地域の強みを最大限に活かし、さらに電気機器という成長分野の企業を呼び込むことで、相乗効果を生み出そうとしているのです。
サプライチェーンの視点から見た地域開発
この取り組みで注目すべきは、個々の工場誘致という点の話ではなく、地域全体でサプライチェーンを強化しようという視点です。近年の地政学リスクの高まりやパンデミックの経験から、世界的にサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになりました。これを受け、多くの企業が生産拠点の分散化や国内回帰(リショアリング)、あるいは近隣国への移転(ニアショアリング)を進めています。
ケンタッキー州の動きは、こうした大きな潮流の中で、自らの地域を「信頼性が高く、強靭なサプライチェーンを構築できる場所」として位置づけようとするものです。部品メーカーから組立工場、さらには関連するサービス産業までが近接して立地することで、リードタイムの短縮、輸送コストの削減、そして不測の事態への対応力向上などが期待できます。これは、日本の製造業が直面するサプライチェーンの課題を解決する上でも、非常に参考になるアプローチです。
日本の製造業への示唆
今回のケンタッキー州の事例から、日本の製造業関係者が得るべき実務的な示唆を以下に整理します。
1. サプライチェーンの再評価と国内・地域拠点の強化
グローバルに展開したサプライチェーンのリスクを再評価し、国内生産拠点の価値を見直す良い機会です。特に、特定の地域に研究開発から部品製造、最終組立までを集約させる「産業クラスター」の形成は、サプライチェーンの強靭化と国内産業の競争力維持に繋がります。自社の主要拠点がある地域で、どのような連携が可能か検討する価値は大きいでしょう。
2. 自治体や地域組織との連携
一企業単独での努力には限界があります。BE NKYの事例のように、地域の自治体や経済団体が主導し、産業インフラの整備や人材育成、企業間のマッチングなどを支援する体制は、企業の持続的な成長に不可欠です。自社の立地する自治体や地域の支援策を積極的に活用し、ときには連携して新たな産業振興策を働きかけるといった視点も重要になります。
3. 立地戦略の多角的な検討
新たな工場建設や拠点再編を検討する際、人件費や土地代といった直接的なコストだけでなく、物流網の効率性、周辺サプライヤーの質と量、災害リスク、行政の支援体制といった多角的な視点から評価することが求められます。ケンタッキー州の事例は、「実用的で高性能な立地」がいかにして形成されるかを示す好例であり、自社の立地戦略を策定する上での重要な判断材料となるはずです。


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