ブランド価値を支える生産管理の視点 — クリエイティブ分野に学ぶ「ハンズオン」な工程管理

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昨今、製品の機能的価値だけでなく、その背景にあるストーリーや思想といった情緒的価値が重視される傾向にあります。一見、製造業とは異なるクリエイティブ分野の事例から、製品価値を最終工程まで一貫して届けきるための、生産管理における普遍的な原則を読み解きます。

クリエイティブ分野における「生産管理」の重要性

ブランドコンサルタントとして活躍するKhushi Sheth氏の取り組みは、我々製造業に携わる者にとっても示唆に富んでいます。彼女は、ブランドのストーリーテリングやトレンド創出といったクリエイティブな活動において、その成功の鍵が「生産管理(Production Management)」と「全工程の監督」にあると指摘しています。これは映像制作などの分野における言葉ですが、製品が企画され、顧客の手に渡るまでの一連の流れを管理するという点で、製造業のプロセスと本質的に通じるものがあります。

製品に込められたコンセプトや思想(=ストーリー)が、設計、調達、製造、品質保証という各工程を経る中で、その輝きを失うことなく、むしろ増幅されて最終製品に結実するか。そのためには、各工程が有機的に連携し、一貫した思想を共有する管理体制が不可欠です。クリエイティブな分野でさえ、こうした地道な管理がブランド価値の源泉となっている事実は、改めて注目すべき点でしょう。

現場主義に通じる「ハンズオン」アプローチ

Sheth氏が特徴としているのが、「ハンズオン(hands-on)」、すなわち実践的で現場に深く関与するアプローチです。プロジェクトのあらゆる段階を自ら監督することで、初期のコンセプトと最終的なアウトプットとの間に齟齬が生まれるのを防いでいます。これは、日本の製造業が長年大切にしてきた「現場主義」や「三現主義(現場・現物・現実)」の思想と重なります。

昨今、組織の専門分化や業務のデジタル化が進む中で、管理者や技術者が現場から遠ざかり、データや報告書だけで判断を下す場面が増えていないでしょうか。しかし、真の問題や改善のヒントは、常に現場・現物にあります。企画、設計、生産技術、製造、品質保証といった各部門の担当者が、それぞれの持ち場に閉じこもるのではなく、互いの領域に足を踏み入れ、現物を前に議論を重ねることの重要性を、この「ハンズオン」という言葉は我々に再認識させてくれます。

部門を越えた一貫性が生み出す価値

プロジェクトの全工程を監督するということは、部門間の壁を取り払い、一気通貫で価値創造のプロセスを管理することを意味します。製造業においては、例えば設計部門が「作りやすさ」を、生産技術部門が「製品の意匠」を、品質保証部門が「顧客の潜在的な使い方」を、それぞれどこまで理解し、協働できているかが問われます。

各部門が個別のKPI(重要業績評価指標)のみを追求すると、プロセス全体としての一貫性が損なわれ、結果として製品の価値を毀損してしまう恐れがあります。製品に込められたストーリーや思想を最終顧客に届けるという共通の目標に向かって、全部門が連携する。そのための仕組みや風土を醸成することが、これからの工場運営や経営において、より一層重要になっていくと考えられます。

日本の製造業への示唆

今回の事例から、日本の製造業が改めて留意すべき点を以下に整理します。

1. 製品コンセプトの全工程への浸透:
開発・設計段階で描かれた製品のコンセプトや「想い」を、単なる仕様書や図面として後工程に渡すだけでなく、その背景にあるストーリーまで含めて共有する仕組みが重要です。生産や品質管理の担当者が「何のためにこれを作るのか」を深く理解することで、日々の業務における判断の質が向上し、製品価値の維持・向上に繋がります。

2. 管理者・技術者の「現場回帰」:
リモートワークやデジタルツールの活用が進む一方で、意識的に現場・現物に触れる機会を設けることが求められます。部門の垣根を越えた現場検討会や、管理者自身による定期的な工程巡回など、アナログながらも効果的な「ハンズオン」な取り組みを再評価すべき時期に来ているのかもしれません。

3. 「価値」を軸としたプロセス管理:
QCD(品質・コスト・納期)の最適化は製造業の基本ですが、それに加えて「製品が顧客に提供する本質的な価値(ストーリー)をいかに高めるか」という視点をプロセス管理に組み込むことが重要です。これは、単なる機能の作り込みに留まらない、日本のものづくりが本来持つ強みをさらに引き出すための鍵となるでしょう。

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