製造現場において「アディティブ・マニュファクチャリング(AM)」と「3Dプリンティング」は、しばしば同義で語られます。しかし、材料を積層せずに付加製造を行う新しい技術が登場し、その定義は広がりを見せています。本稿では、あるスタートアップ企業の事例をもとに、AM技術の新たな潮流と、それが日本の製造業に与える示唆について解説します。
「アディティブ・マニュファクチャリング」と「3Dプリンティング」の定義
まず、言葉の整理から始めたいと思います。ASTM(米国材料試験協会)によると、アディティブ・マニュファクチャリング(AM)は、「3Dモデルデータから材料を接合して物体を造るプロセスであり、通常は層を重ねていく方式(layer upon layer)で、除去加工とは対照的な手法」と定義されています。この「層を重ねていく」という部分が、私たちが一般的に「3Dプリンティング」と呼ぶ技術の核心です。つまり、3DプリンティングはAMを実現するための代表的な手法の一つ、と位置づけるのが正確な理解と言えるでしょう。しかし、近年はこの「積層」という前提に当てはまらない、新しいAM技術が登場し始めています。
鋳型を用いる新しいAM技術:Perseus Materials社の事例
その興味深い一例が、米国のスタートアップ企業Perseus Materials社が開発した技術です。彼らのプロセスは、従来の3Dプリンティングとは大きく異なります。まず、最終製品の形状をした鋳型(モールド)を用意します。そして、独自開発したナノ構造を持つポリマー樹脂をその鋳型に射出し、熱と圧力を加えて硬化させることで部品を製造します。この手法は、材料を「付加」して製品を作る点ではAMに分類されますが、一層ずつ積層するわけではありません。むしろ、私たちの現場で馴染み深い「射出成形」や「鋳造」の考え方に近いプロセスと言えます。
新技術がもたらす特性と利点
この技術で製造された部品は、非常に優れた特性を持つと報告されています。主原料であるポリオレフィン系の樹脂は、ナノテクノロジーによって強化されており、最終製品は航空宇宙グレードのアルミニウム合金に匹敵する強度と靭性を持ちながら、重量はその3分の1程度に抑えられます。加えて、耐腐食性や耐衝撃性にも優れています。また、鋳型を用いることで、3Dプリンターでは難しい大型部品の製造にも対応できる可能性があります。さらに、複雑な内部構造(ラティス構造など)を持つ部品を、後工程での機械加工をほとんど必要としない「ニアネットシェイプ」で成形できる点も大きな利点です。加工に必要な温度や圧力も比較的低く(約177℃、0.7MPa)、省エネルギーの観点からも注目されます。
従来の製造法やAMとの比較から見えること
この技術を既存の工法と比較すると、そのユニークな立ち位置が明確になります。切削加工に比べれば、材料の廃棄が少なく、サステナビリティに貢献します。従来の積層造形(3Dプリンティング)と比較すると、積層痕に起因する異方性(方向による強度のばらつき)が発生しにくいという利点が考えられます。一方で、一点ものや少量多品種生産を得意とする3Dプリンティングとは異なり、鋳型(金型)の製作が必要となるため、ある程度の生産量が見込める製品に適しているでしょう。この点は、日本の製造業が強みとしてきた金型設計・製作技術や成形技術を活かせる可能性を示唆しており、非常に興味深いところです。既存の技術基盤と新しい材料技術を融合させることで、新たな付加価値を生み出すヒントが隠されているかもしれません。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は少なくありません。最後に、実務的な示唆として要点を整理します。
1. AM技術の捉え方の更新
「AM=3Dプリンターによる積層造形」という固定観念を見直し、より広い視野で技術動向を追う必要があります。射出成形や鋳造といった既存技術の延長線上にも、AMの新しい可能性があることを認識することが重要です。
2. 材料技術の重要性
今回の事例は、製造プロセスの革新が、ナノテクノロジーのような先進的な材料技術に支えられていることを示しています。最終製品の性能を決定づけるのはプロセスだけでなく、材料そのものです。自社の製品開発において、新しい材料の採用がブレークスルーに繋がらないか、常に検討する姿勢が求められます。
3. 既存技術との融合による新たな価値創造
全く新しい設備を導入するだけでなく、自社が持つ金型技術、成形技術、品質管理ノウハウといった既存の強みと、新しいAMの考え方をどう組み合わせるか、という視点が不可欠です。金属部品の樹脂化による軽量化など、具体的な適用先を想定しながら、こうした新技術の評価を進めていくべきでしょう。
AM技術は、今や多様なアプローチが生まれる成熟期に入りつつあります。自社の事業や技術とどう結びつけ、競争力強化に繋げていくか。現場と経営が一体となって知恵を絞るべき時期に来ていると言えます。


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