米国のライフサイエンス機器メーカー、Harvard Bioscience社が、グローバルな生産体制の最適化を目的として、米国内の工場を閉鎖し、スペインの拠点へ生産機能を集約することを発表しました。この事例は、変化する事業環境に対応するための生産戦略を考える上で、日本の製造業にとっても多くの示唆を与えてくれます。
概要:Harvard Bioscience社の拠点集約計画
ライフサイエンス分野の計測機器などを手掛ける米Harvard Bioscience社は、マサチューセッツ州ホリストンにある製造拠点を2025年末までに閉鎖し、その生産機能をスペインにある同社の製造ハブへ移管する計画を明らかにしました。この動きは、2023年に発表された複数年にわたるリストラクチャリング(事業再構築)計画の一環であり、グローバルな製造・サプライチェーン体制を最適化し、事業の効率性と利益率の向上を図ることを目的としています。
「製造ハブ」への集約が意味するもの
今回の発表で注目すべきは、単なる工場の閉鎖やコストの安い地域への移転ではなく、「製造ハブ(manufacturing hub)」への機能集約を明確に打ち出している点です。製造ハブとは、特定の拠点に生産技術、エンジニアリング機能、品質管理、サプライチェーン管理といった中核的な機能を集中させ、効率と専門性を高める戦略を指します。同社は、スペインの拠点を中核と位置づけ、そこにリソースを集中投下することで、グループ全体の生産性を高めようとしていると考えられます。
このような戦略は、製品ポートフォリオの変化や市場の要求に迅速に対応するための体制構築を意図している可能性があります。個々の工場が独立して運営されるよりも、ハブ拠点が主導して生産プロセスや技術の標準化を進めることで、品質の安定化や新製品の迅速な立ち上げ、コスト競争力の強化に繋がります。
日本の製造業から見た考察
この事例は、決して海外企業だけの話ではありません。日本の製造業においても、国内外に複数の生産拠点を有する企業は多く、それぞれの拠点の役割や位置づけを常に見直す必要に迫られています。特に近年は、為替の変動、地政学リスクの高まり、国内外での人件費の上昇、そして深刻化する労働力不足など、生産拠点を取り巻く環境は大きく変化しています。
かつては「国内のマザー工場で開発・試作を行い、海外の工場で量産する」という役割分担が一般的でしたが、現在ではその前提が必ずしも最適とは言えなくなっています。製品のライフサイクル、求められる品質レベル、供給先の市場、そしてサプライチェーンの安定性といった複数の要素を考慮し、グローバルな視点で「どこで何を作るべきか」をゼロベースで再評価する時期に来ていると言えるでしょう。今回のHarvard Bioscience社の決断は、そうした経営判断の一つの具体例として捉えることができます。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が実務レベルで得るべき示唆を以下に整理します。
1. 生産拠点の定期的なポートフォリオ評価
事業環境の変化に対応するため、自社の国内外の生産拠点が持つ機能、コスト構造、技術力、そしてリスクを定期的に評価し、その役割を見直すことが重要です。固定観念に囚われず、現状が本当に最適なのかを問い続ける姿勢が求められます。
2. 「ハブ&スポーク」モデルの検討
全ての拠点で同じ機能を持つのではなく、中核となる「ハブ(拠点)」を定め、そこに技術開発や高度な生産技術、人材を集中させる「ハブ&スポーク」型の生産体制も有効な選択肢です。これにより、経営資源の効率的な活用と、企業全体の技術力向上が期待できます。
3. 生産移管の緻密な計画と実行
生産拠点の集約や移管は、簡単なことではありません。生産設備の移設だけでなく、技術やノウハウの移転、サプライヤー網の再構築、現地従業員の処遇、そして何よりも移管期間中の製品品質の維持と安定供給が不可欠です。こうした複雑なプロジェクトを完遂するための、周到な計画立案と強力なプロジェクトマネジメント体制が成功の鍵を握ります。


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