米国の医療機器・医薬品大手であるバクスター・インターナショナルが、ノースカロライナ州の主要工場で人員削減に踏み切りました。この動きは、パンデミック後の需要変動が製造業の現場に与える影響を浮き彫りにしており、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
米医療機器大手、需要減を理由に工場人員を削減
米国ノースカロライナ州西部で地域最大の雇用主の一つであるバクスター社の工場が、従業員の約3%にあたる90名を解雇したと報じられました。同工場は主に静脈内(IV)輸液などを製造しており、地域経済において重要な役割を担っています。今回の人員削減は、同社が2月に発表したグローバルな人員削減計画の一環と見られています。
背景にある「需要の正常化」と事業環境の変化
バクスター社が解雇の理由として挙げたのは、「需要の減少とグローバルな事業環境の変化」です。特に医療関連製品は、新型コロナウイルスのパンデミック期間中に需要が急増しましたが、その後、需要が落ち着き、いわゆる「正常化」の過程にあります。このような急激な需要の変動は、生産計画や人員計画に大きな影響を及ぼします。
日本の製造現場においても、半導体不足やコロナ特需、そしてその後の反動減など、予測が困難な需要の波を経験した企業は少なくないでしょう。需要がピークにある時は増産対応に追われますが、需要が減少に転じた際に、過剰となった生産能力や人員をいかに調整するかは、経営における極めて難しい課題です。今回のバクスター社の事例は、需要の山と谷に対応できる柔軟な体制構築の重要性を改めて示しています。
雇用調整の現実と日本企業への示唆
報道によれば、解雇された従業員には突然の通告であったことが伝えられており、現場の動揺は大きかったと推察されます。一方で、企業側は退職金や再就職支援などを提供するとしています。米国では事業環境の変化に応じて、比較的迅速に雇用調整が行われるのが一般的です。これは、労働市場の流動性が日本よりも高いことに起因します。
日本の製造業では、解雇のハードルが高く、まずは配置転換や出向、希望退職者の募集といった手段で雇用を維持しようと努めるのが通例です。しかし、グローバルな競争環境が激化する中、事業ポートフォリオの再構築や生産拠点の最適化は避けて通れません。特定の製品や市場の需要変動が、事業の根幹を揺るがすリスクは常に存在します。対岸の火事と捉えるのではなく、自社の事業構造や人員構成が将来の環境変化に耐えうるものか、平時から検討しておくことが肝要です。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は以下の通り整理できます。
1. 需要変動リスクの再評価と生産体制の柔軟化
特定の製品群や顧客への依存度が高い場合、その需要変動が直接経営に影響します。自社の事業ポートフォリオにおけるリスクを再評価するとともに、需要の増減に柔軟に対応できる生産体制(多能工化の推進、変動費を意識した人員計画など)を構築することが重要です。需要予測の精度向上も欠かせませんが、予測が外れることを前提としたレジリエンス(回復力・弾力性)のある工場運営が求められます。
2. 人員計画と人財育成の長期的視点
短期的な需要変動に一喜一憂し、安易な増員や削減に頼るのではなく、長期的な視点での人員計画が不可欠です。従業員のスキルを多様化させる「多能工化」は、生産ライン間の人員融通を可能にし、稼働率の平準化に貢献します。また、事業環境の変化に対応できるよう、従業員のリスキリング(学び直し)を支援し、変化に強い組織文化を醸成することも経営の重要な役割と言えるでしょう。
3. サプライチェーン全体での情報共有と連携
需要の変動は、自社だけでなくサプライヤーや顧客にも影響を及ぼします。サプライチェーン全体で需要情報を可視化し、密に連携することで、チェーン全体での過剰在庫や生産能力のミスマッチを抑制できます。顧客との対話を深め、より精度の高い内示情報を得る努力も、こうしたリスクを低減する上で有効です。


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