製造業における「作られた問題」:真の課題を見抜く力の必要性

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海外の政治ニュースで「製造する(manufacturing)」という言葉が意外な意味で使われていました。この比喩的な用法は、私たち製造業の現場における「問題設定」のあり方について、重要な示唆を与えてくれます。本稿では、この言葉を切り口に、真の課題を見抜くことの重要性を考察します。

英語の”Manufacturing”が持つ、もう一つの意味

先日、海外の政治ニュースに目を通していたところ、”manufacturing a crisis”という表現が使われていました。直訳すると「危機を製造する」となりますが、これは物理的に何かを作るという意味ではありません。文脈としては「存在しない危機を意図的に作り出す、でっち上げる」といった、比喩的な意味で用いられていました。このように、私たちが日常的に使う「製造」という言葉が、全く異なるニュアンスで使われることがあるのは興味深い点です。

この比喩表現は、一見すると私たちの業務とは無関係に見えるかもしれません。しかし、少し立ち止まって考えてみると、製造業の現場や経営においても、意図せずして「問題を作り出して」しまい、本質からずれた対応にリソースを費やしてしまう危険性を示唆しているように思えます。

製造現場における「作られた問題」とは

ここで言う「作られた問題」とは、客観的な事実に基づかず、思い込みや不十分な情報、あるいは特定の意図によって作り上げられた、見せかけの課題のことです。私たちの現場でも、こうした状況は起こり得ます。

例えば、ある製品の不良率がわずかに上昇したとします。その際、十分なデータ分析や現場検証を行わずに、「あの古い設備が原因に違いない」「作業者のスキルが低下している」といった安易な結論に飛びついてしまうケースです。しかし、真の原因は測定器の校正がずれていたことであったり、材料のロットが変更された影響であったりすることも少なくありません。この場合、「古い設備」や「作業者のスキル」は、本来解決すべき課題ではない「作られた問題」と言えるでしょう。

このような誤った問題設定は、的外れな対策につながり、時間、労力、コストを浪費するだけでなく、真の問題を放置することで、より大きな損失を招くことにもなりかねません。

なぜ「真の問題」を見誤るのか

では、なぜ私たちは本質的な問題を見誤ってしまうのでしょうか。いくつかの要因が考えられます。

第一に、現状把握の不足が挙げられます。机上のデータや報告書だけで判断し、現場・現物・現実を確認する「三現主義」が疎かになっている場合、事象の表面的な部分しか見えません。現場の空気感、機械の微細な異音、作業者の些細な変化といった情報の中に、真の原因を探るヒントが隠されていることも多いのです。

第二に、思い込みや過去の経験則といったバイアスです。「以前もこれで解決したから」「きっとこうだろう」という先入観が、客観的な事実の観察を妨げ、視野を狭めてしまいます。特に、過去の成功体験が大きいほど、この傾向は強くなるため注意が必要です。

第三に、部門間のコミュニケーション不足です。設計、製造、品質保証、購買といった各部門が持つ情報が分断されていると、全体像を正確に把握することができません。それぞれの立場からの断片的な情報だけで結論を急ぐと、問題の本質を見誤るリスクが高まります。

正しい問題設定こそが、解決の第一歩

品質管理の基本であるQCストーリーにおいても、最初のステップは「テーマの選定」と「現状把握・目標の設定」です。また、トヨタ生産方式では「なぜなぜ分析」を通じて、表面的な事象の奥にある根本原因(真因)を徹底的に掘り下げます。これらはすべて、正しい問題設定の重要性を説いています。

問題とは、本来「あるべき姿(目標)」と「現状」との間にあるギャップのことです。このギャップを、客観的な事実とデータに基づいて正確に定義すること。それこそが、あらゆる改善活動や問題解決の出発点となります。「何を解決するのか」が明確でなければ、その後の「どのように解決するか」という手法の議論は意味を成しません。私たちは、解決策を考える前に、まず目の前の事象が本当に解決すべき「問題」なのかを慎重に見極める必要があります。

日本の製造業への示唆

今回の考察から、日本の製造業に携わる私たちが改めて心に留めておくべき点を以下に整理します。

1. 事実に基づく問題定義の徹底:感覚や経験則に頼るだけでなく、データと現場・現物による事実確認を徹底し、「あるべき姿」と「現状」のギャップとして問題を正確に定義する習慣を組織全体で身につけることが重要です。問題設定の段階で、関係者間の認識を確実に合わせる必要があります。

2.「なぜ」を繰り返す文化の醸成:表面的な現象に惑わされず、その背後にあるメカニズムや根本原因を論理的に追究する姿勢が不可欠です。「なぜなぜ分析」を形骸化させず、本質的な議論を奨励する風土を作り上げることが、的外れな対策を防ぎます。

3. オープンなコミュニケーションの促進:部門の壁を越えて情報を共有し、多角的な視点から問題を捉えることが、思い込みや視野狭窄を防ぎます。特に、現場の技術者や作業者が感じている違和感や懸念を、率直に発言できる心理的安全性の高い環境が求められます。

4. 経営層の役割:経営層や工場長は、短期的な成果を急ぐあまり、現場が安易な原因特定に走ることを戒めなければなりません。むしろ、じっくりと腰を据えて真因を究明するプロセスを評価し、支援する姿勢を示すことが、組織全体の問題解決能力を高める上で極めて重要です。

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