石油メジャーであるシェル社の決算報告は、コスト削減の成果を示す一方で、事業売却と将来の生産を確保するための新規投資を同時に進めるという、難しい経営判断を浮き彫りにしました。この動きは、現代の製造業が直面する「選択と集中」、そして「両利きの経営」の現実的な姿を示唆しています。
コスト削減と事業ポートフォリオの見直し
先日発表されたシェル社の決算報告では、厳しい事業環境の中でコスト削減が奏功し、一定の成果を上げていることが示されました。注目すべきは、同社が一部事業の売却(ダイベストメント)を継続している点です。これは、脱炭素化という世界的な潮流や、市場の変化に対応するため、事業ポートフォリを常に最適化しようとする強い意志の表れと言えるでしょう。日本の製造業においても、不採算事業やノンコア事業からの撤退は、経営資源を成長分野に集中させるための重要な経営判断です。シェルのような巨大企業がこうした動きを加速させている事実は、改めて自社の事業構成を見直すきっかけとなるかもしれません。
将来の生産確保に向けた投資の継続
事業売却を進める一方で、シェルは将来の生産を確保するための投資を緩めていません。具体的には、新たな石油・ガスプロジェクトを立ち上げるコミットメントを再確認しています。これは、短期的に見れば脱炭素の流れに逆行するように見えるかもしれません。しかし、エネルギーの安定供給という社会的な責務を果たすためには、移行期間中も既存のエネルギー源が必要であるという、極めて現実的な判断に基づいています。既存の主力事業で収益を確保し、それを原資として次世代の事業や技術に投資していく。これは、多くの製造業が目指す「両利きの経営」の実践そのものです。現在の収益源を維持・強化しながら、いかにして未来の飯の種を育てるか。この難題に対する一つの答えがここに示されています。
「厳しいトレードオフ」が示す経営の現実
今回の決算報告は「厳しいトレードオフ(Tough Trade-Offs)」という言葉で象徴されるように、現代の経営が直面するジレンマを映し出しています。株主への利益還元、脱炭素化への対応、そしてエネルギーの安定供給という、時に相反する要求のなかで、最適な資本配分を行わなければなりません。これは、日本の製造現場においても他人事ではありません。老朽化した設備の更新、DXやスマート工場化への投資、人件費の上昇への対応、そして環境規制への準拠。限られた経営資源をどこに重点的に投下すべきか、工場長や経営層は日々難しい判断を迫られています。シェルの事例は、こうしたトレードオフから目を背けることなく、戦略的な意思決定を下すことの重要性を教えてくれます。
日本の製造業への示唆
今回のシェルの動向から、日本の製造業が学ぶべき点は少なくありません。以下に要点を整理します。
1. 事業ポートフォリオの動的な見直し:
市場環境や社会的要求の変化に対応するため、自社の事業ポートフォリオを聖域なく見直し、取捨選択を続けることが不可欠です。固定観念に囚われず、将来の収益性と社会貢献度を天秤にかけ、冷静に判断する姿勢が求められます。
2. 「両利きの経営」の現実的な実践:
既存事業の収益力を維持・向上させることが、未来への投資の原資となります。理想論だけでなく、足元のキャッシュフローを確保しつつ、次世代の技術や事業に戦略的に資源を再配分していく、現実的でバランスの取れたアプローチが重要です。
3. トレードオフの明確化と意思決定:
何に投資し、何を諦めるのか。経営におけるトレードオフを明確に認識し、その判断基準を社内外に示すことが、組織の求心力を高め、ステークホルダーの理解を得る上で鍵となります。特に現場レベルでは、なぜ今この投資が必要なのか、あるいは見送られるのかを丁寧に説明することが、従業員の納得感とモチベーションに繋がります。


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