米国の大手医療機器メーカー、バクスター社がハリケーンで被災した工場の人員削減を発表しました。この事例は、災害からの物理的な復旧だけでなく、その後の市場環境の変化に対応するという、事業継続計画(BCP)のさらに先にある課題を我々に突きつけています。
概要:ハリケーン被災工場での人員削減
米国の医療機器メーカーであるバクスター社は、ノースカロライナ州マリオンの工場において、従業員の約3%にあたる約90のポジションを削減したことを明らかにしました。この工場は2024年9月に発生したハリケーン・ヘレンによって甚大な被害を受けており、今回の人員削減の理由として、同社は「ハリケーン後の市場環境の変化」を挙げています。
この動きは、自然災害からの復旧プロセスが、単に設備や建屋を元に戻すことだけでは終わらないという厳しい現実を示唆しています。生産活動の再開を果たしたとしても、市場や需要そのものが災害前と同じ姿であるとは限らないのです。
BCPにおける「復旧」と「事業再構築」の視点
日本の製造業においても、地震や水害などへの備えとして事業継続計画(BCP)の策定は常識となっています。しかし、その多くは、被災直後の初動対応や、サプライチェーンの寸断への対策、生産設備の復旧手順といった「いかに早く元の状態に戻すか」という点に主眼が置かれがちです。
バクスター社の事例が示すのは、BCPのスコープを「復旧」から「事業再構築」にまで広げる必要性です。大規模な災害は、自社だけでなく、顧客やサプライヤー、そして最終消費者に至るまで、サプライチェーン全体に影響を及ぼします。その結果、市場の需要構造が恒久的に変化してしまう可能性があります。例えば、主要顧客が被災によって事業規模を縮小したり、あるいは災害を機に消費者のニーズが変化したりすることも考えられます。
変化した市場への適応という経営判断
今回のバクスター社の決定は、痛みを伴うものではありますが、変化してしまった市場の需要規模に合わせて生産体制を最適化し、事業の持続可能性を確保するための経営判断と捉えることができます。単に以前の生産能力を回復させることを目的とするのではなく、市場の実態に合わせて固定費や人員構成を見直すという、より現実的なアプローチです。
これは、日本の製造現場にとっても他人事ではありません。災害復旧計画を立案する際には、物理的な復旧スケジュールと並行して、市場や主要顧客の動向を再評価するプロセスを組み込むことが重要です。そして、その評価に基づき、生産品目や生産量、ひいては工場の役割そのものを見直すといった、柔軟な意思決定が求められるでしょう。
日本の製造業への示唆
この事例から、日本の製造業が学ぶべき点は以下の通りです。
1. BCPのスコープ拡大:
BCPを、単なる「物理的な復旧計画」から、復旧後の市場変化を織り込んだ「事業再構築計画」へと昇華させる視点が必要です。災害後の市場分析や需要予測のプロセスを、計画の一部として明確に位置づけるべきでしょう。
2. 市場・需要の冷静な再評価:
自社の生産再開だけでなく、顧客やサプライヤーの状況、市場全体の需要構造がどう変化したかを冷静に分析する体制が不可欠です。「いずれ元に戻るだろう」という希望的観測ではなく、客観的なデータに基づいた判断が求められます。
3. 生産体制の柔軟性と最適化:
平時から、固定費の構造や人員配置のあり方について、外部環境の変化に柔軟に対応できる体制を検討しておくことが重要です。災害という大きな変化は、非効率な部分を見直し、より強靭な事業構造へと変革する機会と捉えることもできます。

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