昨今の不確実な事業環境において、顧客への安定供給を維持することは製造業の根幹を揺るがす課題です。カナダのエネルギー企業の事例から、持続的な生産体制を構築するための普遍的な原則を読み解き、日本の製造現場における実践的なヒントを探ります。
はじめに:異業種に学ぶ、安定生産の原理原則
カナダの石油会社である Athabasca Oil 社のオペレーションモデルが、海外で注目されています。その要点は「持続的な生産(Sustained Output)を支えるために、資源開発、現場インフラ、生産管理を重視する」という、一見すると当たり前の内容です。しかし、この3つの要素を統合し、バランスよく機能させることこそ、業種を問わず、安定した事業運営を実現する上での本質と言えるでしょう。本稿では、このモデルを日本の製造業の視点から読み解き、日々の工場運営や経営に活かすためのポイントを考察します。
持続可能な生産体制を構成する3つの柱
同社のモデルを製造業の現場に置き換えると、次の3つの柱として整理することができます。これらは個別に存在するのではなく、相互に連携することで初めて強固な生産基盤となり得ます。
1. 資源開発:技術・人材・原材料の確保
製造業における「資源」とは、油田のような天然資源に限りません。むしろ、独自の製造技術やノウハウ、それを担う人材、そして製品の品質を左右する原材料こそが、最も重要な経営資源です。競争力の源泉となるコア技術の深化や、デジタル技術の導入といった技術開発はもちろんのこと、技能伝承や多能工化といった人材育成への継続的な投資が不可欠です。また、近年のサプライチェーンの混乱を教訓に、特定サプライヤーへの依存を避け、調達ルートを複線化しておくといった原材料の安定確保に向けた取り組みも、この「資源開発」の一環と捉えるべきでしょう。
2. 現場インフラ:生産設備とそれを支える仕組み
優れた技術や人材も、それを活かすための「インフラ」がなければ宝の持ち腐れとなります。製造現場におけるインフラとは、生産設備や検査機器、工場建屋やユーティリティ設備といったハードウェアだけを指すものではありません。生産情報をリアルタイムに収集・可視化するMES(製造実行システム)のようなITシステム、あるいは設備の安定稼働を支える予防保全(TPM)の仕組みなども、重要な現場インフラの一部です。老朽化した設備の計画的な更新や、生産性向上に資するデジタルツールの導入など、中長期的な視点に立ったインフラへの投資判断が求められます。
3. 生産管理:日々のオペレーションの最適化
「資源」と「インフラ」を最大限に活用し、日々の生産活動を円滑に進めるのが「生産管理」の役割です。需要予測に基づいた精度の高い生産計画の立案、計画と実績の差異を把握し対策を打つ進捗管理、そして不良の発生を未然に防ぎ、品質を維持・向上させる品質管理。これら一連の管理サイクルを愚直に回し続けることが、安定生産の土台となります。特に、現場の小集団活動やなぜなぜ分析などを通じて、日々の問題点を吸い上げ、継続的な改善(Kaizen)につなげていく地道な活動は、日本の製造業が世界に誇る強みであり、この生産管理の中核をなすものに他なりません。
日本の製造業への示唆
今回取り上げたエネルギー企業の事例は、日本の製造業が自社のオペレーションを見直す上で、有益な視点を提供してくれます。短期的なコスト削減や生産効率の追求に目が向きがちですが、今一度、持続的な生産体制という原点に立ち返り、自社の強みと弱みを評価することが重要です。
経営層や工場長は、以下の3つの観点から自社の現状を点検してみてはいかがでしょうか。
- 「資源」の点検:我々のコア技術は陳腐化していないか。次世代を担う人材は育っているか。サプライチェーンに脆弱性はないか。
- 「インフラ」の点検:生産設備の老朽化は計画的に対処できているか。現場の情報を的確に把握する仕組みは整っているか。DXへの投資は効果を上げているか。
- 「管理」の点検:生産計画は実態に即しているか。問題発生時の対応と再発防止の仕組みは機能しているか。現場の改善活動は形骸化していないか。
「資源」「インフラ」「管理」の3つの柱は、いわば工場の土台です。どれか一つが突出していても、バランスが崩れていては安定した生産は望めません。この3つの要素を有機的に連携させ、絶えず見直しと強化を図っていくことこそが、不確実性の高い時代を乗り切るための王道と言えるでしょう。


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