ライトオン社の国産ニット開発に学ぶ、技術と素材で付加価値を創出する国内生産の新たな形

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アパレル大手のライトオン社が開発した「Made in Japan ニット」は、単なる国産というだけでなく、製造技術と素材選定に裏打ちされた高付加価値な製品です。同社の事例は、価格競争から脱却し、持続可能なものづくりを目指す日本の製造業にとって、多くの示唆を与えてくれます。

セール依存からの脱却を目指した製品開発

多くのアパレル企業が直面する課題として、過剰生産とそれに伴うセール販売の常態化、そして利益率の低下が挙げられます。株式会社ライトオンも同様の課題を認識し、セールに依存しない、定価で顧客に価値を届けられる製品開発を模索していました。その一つの答えが、長く愛用できる高品質・高機能な製品を国内で生産する「Made in Japan ニット」の企画でした。これは、単に「日本製」という記号的な価値に頼るのではなく、その背景にある技術、素材、そして生産体制そのものを価値として顧客に提供しようという、製造業の本質に根差したアプローチです。

技術的アプローチ①:ホールガーメント®による製造革新

このニットの最大の特徴の一つが、株式会社島精機製作所の無縫製ニット編機「ホールガーメント®」で製造されている点です。従来のニット製品が、編み上げたパーツを縫い合わせて作られるのに対し、ホールガーメント®は一着まるごと立体的に編み上げます。これにより、製造現場にはいくつかの重要なメリットが生まれます。

第一に、縫い目がないため、肌への刺激やごわつきがなく、優れた着心地を実現できます。これは顧客にとって直接的な付加価値となります。第二に、製品の形に編み上げるため、裁断工程で生じる生地のロスが一切ありません。必要な分だけの糸で製品が完成するため、原材料の無駄をなくし、環境負荷を大幅に低減できます。これは、サステナビリティが経営の重要指標となる現代において、製造プロセス自体が企業の姿勢を示す好例と言えるでしょう。製品の付加価値向上と、環境配慮・コスト効率化を同時に実現する、示唆に富んだ技術活用です。

技術的アプローチ②:「和紙糸」という素材選定の妙

製品の機能性を支えるもう一つの柱が、素材として採用された「和紙糸」です。和紙を細く切り、撚りをかけて作られるこの糸は、日本の伝統的な素材でありながら、現代の衣料品に求められる多くの優れた特性を備えています。具体的には、軽量であること、綿に比べて高い吸湿性と速乾性を持つこと、そして消臭効果やUVカット効果が挙げられます。これらの特性により、汗ばむ季節でも快適に着用でき、春から夏、秋口までと、非常に長い期間にわたって活躍する一着となります。「良いものを、長く使う」という製品コンセプトを、素材の機能性が見事に裏付けているのです。ともすれば見過ごされがちな伝統素材や地域素材の中に、新たな製品価値を生み出すヒントが眠っていることを、この事例は教えてくれます。

国内一貫生産がもたらすサプライチェーンの強み

この製品は、企画から生産までを新潟のニット工場と連携し、一貫して国内で行われています。海外生産が主流となる中で、国内生産にこだわったことには明確な戦略的意図があります。物理的な距離が近いことで、企画担当者と工場の技術者との間で、密接なコミュニケーションが可能になります。これにより、製品の細かなニュアンスや品質へのこだわりが正確に伝わり、試作の精度や開発スピードが向上します。また、安定した品質管理を実現しやすく、小ロットでの生産にも柔軟に対応できるため、需要予測に基づいた適切な量の生産が可能となり、過剰在庫のリスクを低減できます。近年の国際情勢の不安定化によるサプライチェーン寸断のリスクを考慮すると、国内に強固な生産基盤を持つことの重要性は、あらゆる製造業にとって増していると言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

ライトオン社のこの取り組みは、私たち日本の製造業にいくつかの重要な視点を提供してくれます。

  • 「国産」の価値の再定義:単に「日本製」と謳うのではなく、ホールガーメント®のような先進技術、和紙糸のような特徴的な素材、そして国内工場との連携による品質管理体制といった、具体的な価値と結びつけて訴求することの重要性を示しています。
  • 製造プロセスがもたらす付加価値:裁断ロスをなくすホールガーメント®のように、製造プロセスそのものがサステナビリティや顧客体験の向上に直結するケースがあります。自社の製造工程に眠る価値を再評価し、それを製品の強みとして打ち出す視点が求められます。
  • 素材の探求と応用:身近な伝統素材や、他分野で利用されている素材に目を向けることで、自社製品に新たな機能性や物語性を付与できる可能性があります。固定観念にとらわれない素材選定が、差別化の鍵となり得ます。
  • 国内サプライチェーンの戦略的活用:品質、納期、コミュニケーションにおける国内生産の優位性を再認識し、それを事業戦略上の武器として活用することが重要です。特に、変化の速い市場に対応するための柔軟性とスピードは、国内生産の大きな強みです。

この事例は、価格競争に陥ることなく、技術と知恵によって付加価値を創出し、顧客と長期的な関係を築いていくという、日本の製造業が目指すべき一つの道筋を示していると言えるでしょう。

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