軍艦のオペレーションに学ぶ組織論:『移動する工場』を動かす人材と仕組み

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英国海軍の日常を追ったドキュメンタリー番組の制作陣リストは、一見すると日本の製造業とは無関係に思えるかもしれません。しかし、軍艦という極めて複雑なシステムを24時間体制で運用する組織の姿は、私たちの工場運営や人材育成に多くの示唆を与えてくれます。

軍艦という『移動する工場』

現代の軍艦は、単なる船舶ではなく、発電所、通信施設、各種の精密機械、そして高度な電子システムが密集した「移動する工場」あるいは「洋上のプラント」と表現するのが適切でしょう。限られた空間に多様な機能が詰め込まれ、常に外洋という厳しい環境下で、高いレベルの稼働率を維持することが求められます。これは、連続操業を行う化学プラントや、高度な自動化ラインを持つ工場が直面する課題と多くの点で共通しています。ひとつのシステムの不具合が全体に波及するリスク、限られた資源(人員、部品、時間)の中での最適なオペレーションの追求など、そこには製造業が日々向き合っている課題が凝縮されています。

標準化と訓練の徹底:品質と安全の基盤

軍艦のような複雑で危険を伴う環境において、オペレーションの根幹をなすのは、徹底された「標準化」と「訓練」です。艦内のあらゆる機器の操作、定期的なメンテナンス、そして不測の事態への対応手順は、厳格なマニュアルや手順書によって定められているはずです。これは、製造現場における作業標準書や安全手順書と全く同じ思想に基づいています。そして重要なのは、その手順が形骸化せず、日々の反復訓練を通じて全乗員の血肉となっている点です。緊急時に誰がどの役割を担い、どのように連携するのか。体に染み付いた手順が、ヒューマンエラーを最小限に抑え、組織全体のパフォーマンスを安定させます。私たちの工場でも、手順書の定期的な見直しや、形だけではない実践的な訓練の重要性を改めて考える必要があるかもしれません。

多様な専門人材によるチームワーク

IMDbのリストが監督、脚本家、編集者など多様な専門家の名前を連ねているように、軍艦もまた、航海、機関、通信、電子、兵器といった多岐にわたる専門技術者の集合体です。それぞれの部署が高度な専門性を持ちながらも、「任務の完遂」という唯一の目標に向かって連携しなければ、巨大な艦は機能しません。機関部で起きたトラブルは、航行計画だけでなく、電子システムにも影響を及ぼす可能性があります。こうした状況では、部門間の壁を越えた迅速な情報共有と、全体最適を考えた意思決定が不可欠です。これは、設計、生産技術、製造、品質保証といった部門がサイロ化しがちな製造業の組織にとって、非常に示唆に富む点と言えるでしょう。

保全とサプライチェーンの自己完結

洋上では、外部からのサポートは容易に得られません。したがって、艦内での予防保全(PM)やトラブル発生時の迅速な事後保全(BM)の能力が、組織の生命線を握ります。どの部品を予備としてどれだけ搭載するかという在庫管理、限られた工具や設備を駆使して修理を行う現場の技術力、そして陸上の補給拠点との連携。これらは、工場の保全部門や生産管理部門が担うサプライチェーン・マネジメントそのものです。特に、予測不能なトラブルに対して、現場の判断と創意工夫で乗り越える能力は、日本の製造業が本来持っている「現場力」の重要性を再認識させてくれます。

日本の製造業への示唆

軍艦のオペレーションという特殊な環境から、私たちは普遍的な組織運営の要諦を学ぶことができます。最後に、実務への示唆として3つのポイントを整理します。

1. 手順の形骸化を防ぎ、実践的な訓練を重視する:
安全や品質に関するルールや手順書が、現場で本当に機能しているか、定期的に見直すことが重要です。また、知識として知っているだけでなく、いざという時に体 が動くレベルまで習熟するための、より実践的な教育・訓練の仕組みを検討すべきでしょう。

2. 「部分最適」から「全体最適」への意識改革:
各部門が持つ専門性は尊重しつつも、組織全体の目標や課題を共有する場を設けることが不可欠です。自部門の業務が、他のプロセスや最終的な製品品質にどう影響するのかを理解することで、部門間の連携はより円滑になります。

3. 厳しい環境下で機能する「現場力」の再評価:
予期せぬトラブルや制約の中で、知恵と工夫で問題を解決する現場の力は、企業の競争力の源泉です。こうした現場の自律性を育むためには、日頃からの権限移譲や、失敗を許容し挑戦を促す組織文化の醸成が求められます。

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