FDAの新制度『PreCheck』とは何か?医薬品サプライチェーン強靭化に向けた米国の新たな一手

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米国食品医薬品局(FDA)は、国内の医薬品製造基盤を強化するため、新たなパイロットプログラム『PreCheck』を開始しました。この動きは、製品の承認申請前に製造施設を評価するもので、サプライチェーンの強靭化を目指す米国の強い意志を示すものです。本稿では、このプログラムの概要と、日本の製造業にとっての意味合いを解説します。

製品申請前の事前施設評価『PreCheck』プログラム

米国FDAが新たに開始した『PreCheck』は、医薬品メーカーが特定の製品(新薬や後発医薬品など)の承認申請を行う前に、FDAがその製造施設をあらかじめ評価・査察することを可能にする、任意参加型のパイロットプログラムです。従来、製造施設の査察は製品の承認申請後に行われるのが一般的でしたが、これを前倒しにすることで、申請後の審査プロセスを迅速化し、医薬品の安定供給を促進する狙いがあります。

このプログラムの対象となるのは、米国内で製造される「必須医薬品(essential medicines)」の有効成分(API)や最終製剤を製造する施設です。FDAは、このプログラムを通じて得られた施設の評価データを蓄積し、将来の製品申請の審査や、他の査察プログラムの計画に活用するとしています。これにより、規制当局と製造業者の双方にとって、プロセスの効率化が期待されます。

導入の背景にあるサプライチェーンの脆弱性という課題

PreCheckプログラム導入の背景には、近年のパンデミックなどを通じて浮き彫りになった、医薬品サプライチェーンの脆弱性に対する強い危機感があります。多くの医薬品やその原材料の製造が海外、特に特定地域に集中している現状は、地政学的リスクや供給途絶のリスクを常に抱えています。この状況を打開し、国内の製造能力を強化することで、国民が必要とする医薬品を安定的に確保する体制を再構築することが、米国の国家的な課題となっています。

これは、医薬品に限らず、半導体や重要鉱物など、様々な分野で進む経済安全保障の流れと軌を一にするものです。製造拠点の国内回帰(リショアリング)を促し、サプライチェーンの強靭化を図るという政策的な意図が、この新しい規制アプローチからも見て取れます。

品質保証体制への示唆:「常に査察可能な工場」へ

このPreCheckプログラムは、製造現場の品質管理・品質保証のあり方にも重要な示唆を与えます。申請後、あるいは問題発生後に査察を受けるという受動的な(リアクティブな)対応から、常に査察を受け入れられる準備が整っている、能動的な(プロアクティブな)品質保証体制への転換が、より一層求められるようになるでしょう。

日本の製造現場においても、「いつでもお客様に見せられる工場」という考え方は以前から存在しますが、それが規制当局の評価プロセスに組み込まれる意味は大きいと言えます。日々の製造活動において、GMP(Good Manufacturing Practice)などの基準を遵守することはもちろん、データインテグリティの確保、変更管理の徹底、継続的なプロセス改善といった活動が、書類上だけでなく実態として機能しているかどうかが問われます。このような常に高いレベルで管理された状態を維持することが、企業の競争力そのものに直結する時代になりつつあります。

日本の製造業への示唆

今回のFDAの動きは、米国の医薬品業界に閉じた話ではありません。日本の製造業、特に医薬品、医療機器、食品といった規制産業や、高度な品質管理が求められる分野に携わる我々にとって、以下の点で重要な示唆を含んでいます。

1. サプライチェーンの再評価と国内生産の価値向上
経済安全保障の観点から、自社のサプライチェーンの脆弱性を改めて評価し、国内生産拠点の価値を見直す必要があります。単なるコスト効率だけでなく、供給の安定性や地政学的リスクを考慮した生産戦略が、今後ますます重要になります。

2. プロアクティブな品質保証体制の構築
「査察のために準備する」のではなく、「常に査察可能な状態を維持する」という発想への転換が不可欠です。デジタル技術を活用したリアルタイムでの品質データ監視や、日常的な教育訓練を通じて、現場の品質意識と対応能力を高めていくことが求められます。

3. グローバルな規制動向への注視
FDAの新しい取り組みは、将来的に世界の規制の潮流となる可能性があります。日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)をはじめ、各国の規制当局が同様のアプローチを採用する可能性も視野に入れ、常に最新の動向を把握し、先手を打って自社の体制を整備していく姿勢が重要です。

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