フィリピンの求人サイトに掲載された、日本のアニメ制作における「プロダクションマネージャー」の募集。この一見、製造業とは無関係に見える情報から、日本のものづくりが培ってきた生産管理手法の普遍的な価値と、海外展開における重要な示唆を読み解くことができます。
海外で求められる日本の生産管理スキル
先日、フィリピンのオンライン求人サイトにて、日本のアニメ制作に携わる「プロダクションマネージャー」の募集が掲載されました。特筆すべきは、その応募資格に「日本のアニメ産業での制作管理経験」や「2Dアニメーションのパイプライン(制作工程)に関する深い理解」が明記されていた点です。これは単にアニメ制作の経験者を求めているのではなく、日本のコンテンツ産業が育んできた、特有の生産プロセスと管理手法を理解した人材を求めていることを示しています。
アニメ制作は、多数の専門家が分業で進める、極めて複雑なプロジェクトです。絵コンテから原画、動画、仕上げ、撮影、編集に至るまで、各工程には決められた手順と品質基準が存在します。これらの工程間の連携を円滑にし、全体の進捗、品質、予算を管理するプロダクションマネージャーの役割は、まさに製造業における「生産管理」そのものと言えるでしょう。この求人は、日本の「作り方」そのものが、国境を越えて価値を持つことを示す好例です。
「作り方」そのものが競争力となる時代
日本の製造業は、長年にわたり高品質な製品を生み出すための生産システムを磨き上げてきました。TQC(総合的品質管理)やトヨタ生産方式(TPS)に代表されるように、個々の作業者のスキルだけでなく、工程全体を最適化し、品質を安定させるための仕組みづくりに長けています。この「作り方を標準化し、管理する能力」は、自動車や電機といった伝統的な製造業に限らず、アニメ制作のようなクリエイティブな分野においても、QCD(品質・コスト・納期)を達成するための重要な基盤となります。
今回の求人が示唆しているのは、海外での生産活動において、単に安価な労働力を求める段階から、日本の高度な生産管理システムそのものを現地に移植し、運用する段階へと移行しつつある、ということです。これは、製造業における海外工場の立ち上げや運営においても全く同じことが言えます。現地の従業員に作業手順を教えるだけでなく、なぜその手順が必要なのか、どうすれば品質が安定するのか、といった思想や仕組みまで含めて定着させることが、海外拠点の競争力を左右する鍵となります。
属人性の排除とプロセスの形式知化
アニメ制作というと、クリエイター個人の才能や職人技に依存するイメージが強いかもしれません。しかし、産業として成り立たせるためには、多くのスタッフが関わる制作工程を円滑に管理し、安定した品質の作品を納期通りに生み出す仕組みが不可欠です。プロダクションマネージャーは、まさにその仕組みを動かす司令塔の役割を担います。
これは、熟練技能者の「暗黙知」に頼りがちな日本の製造現場にとっても、重要な視点です。優れた技能やノウハウを、個人の経験の中に留めておくのではなく、誰もが理解・実践できる「形式知」へと転換し、生産プロセスとして標準化していくこと。そうして体系化された「作り方」は、国内での技術伝承を容易にするだけでなく、海外拠点やサプライヤーにも展開可能な、企業の無形資産となるのです。
日本の製造業への示唆
この一件は、日本の製造業に携わる我々に、以下の重要な示唆を与えてくれます。
1. 生産プロセスの価値の再認識
自社の強みは、最終製品の技術力や品質だけではありません。それを生み出すに至る「生産プロセス」や「品質管理手法」そのものが、他社や他国にはない競争優位性となり得ます。自社のものづくりのやり方を当たり前と捉えず、その価値を再評価し、形式知として体系化する努力が求められます。
2. 海外拠点における管理者の育成
海外での生産を成功させるには、現地の作業者を指導するだけでなく、生産プロセス全体を理解し、主体的にQCD管理を実践できる現地人リーダーや管理者(プロダクションマネージャー)を育成することが不可欠です。日本の「ものづくりの思想」を理解した人材をいかに育てるかが、海外事業の成否を分けると言っても過言ではありません。
3. サプライチェーン全体への展開
自社工場で培った生産管理のノウハウは、海外のサプライヤーに対しても展開することで、サプライチェーン全体の品質と納期の安定化に繋がります。自社の「作り方」を他社にも指導できるレベルまで標準化・体系化しておくことは、グローバルな競争環境において大きな武器となるでしょう。


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