航空宇宙大手が拓く複合材製造の未来:設計と現場をつなぐ「デジタルスレッド」の挑戦

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米航空宇宙大手のLockheed Martin社と、オランダの自動化ソリューション企業Airborne社が、複合材製造におけるデジタル化と自動化を推進する共同プロジェクトを発表しました。この取り組みは、設計から製造までの情報を一気通貫でつなぐ「デジタルスレッド」を核としており、日本の製造業における多品種少量生産の課題解決にも通じる重要な示唆を含んでいます。

複合材製造の自動化を阻む壁

航空宇宙産業をはじめ、自動車や産業機器など幅広い分野で利用が広がる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの複合材。軽量でありながら高い強度を持つこの素材は、製品の性能向上に不可欠ですが、その製造プロセスは複雑で、手作業に依存する部分が多いのが実情です。特に、製品ごとに形状や積層構成が異なる少量多品種生産が主流の航空宇宙分野では、自動化設備の導入は容易ではありませんでした。ロボットなどを導入しても、品種が切り替わるたびに煩雑なプログラミングや段取り替えが発生し、かえって生産性を下げてしまうケースも少なくなかったのです。

設計と製造を直結する「デジタルスレッド」

今回のLockheed Martin社とAirborne社のプロジェクトが目指すのは、この課題を「デジタルスレッド」という概念で解決することです。デジタルスレッドとは、設計データ(CAD/CAM)から製造、検査、保守といった製品ライフサイクル全体の情報を、デジタルデータで途切れることなくつなぎ、一元管理する仕組みを指します。今回のプロジェクトでは、設計情報からロボットの動作プログラム(レシピ)を自動生成し、人手を介さずに製造設備を動かすことを目指しています。これにより、熟練技術者による複雑なプログラミング作業を不要にし、段取り替え時間を劇的に短縮することが可能になります。

中核となる二つの自動化システム

この構想を実現するため、プロジェクトではAirborne社が開発した二つの自動化システムに焦点が当てられています。

一つは「自動積層セル(ALC)」です。これは、熱可塑性複合材のシート(プライ)をロボットが正確にピックアップし、加熱・溶着させながら積層していくシステムです。デジタルスreadにより、設計データに基づいて最適な積層経路や条件が自動で設定されるため、作業者は材料を準備するだけで、高品質な積層品を安定して生産できます。

もう一つは「自動キッティングシステム」です。これは、複合材のプライを自動で切断し、積層する順番通りに仕分けしてキット化する装置です。従来は人手で行われていたこの作業を自動化することで、ヒューマンエラーを防ぎ、後工程である積層作業の効率を大幅に向上させます。品種が変わっても、設計データを読み込むだけで自動的にカッティングと仕分けのパターンが変更されるため、柔軟な生産に対応できます。

日本の製造業への示唆

この取り組みは、複合材という特定の分野に留まらず、日本の製造業全体にとって重要な示唆を与えてくれます。

要点と実務への示唆

  • 個別の自動化からプロセス全体の最適化へ:単にロボットを導入するだけでなく、設計部門から製造現場まで、部門を横断したデータ連携(デジタルスレッド)を構築することが、真の自動化と生産性向上につながります。設計変更が即座に製造指示に反映されるような仕組みは、変化への対応力を高める上で不可欠です。
  • 少量多品種生産への新たなアプローチ:段取り替えの時間をいかに短縮するかが、多品種少量生産における自動化成功の鍵です。本プロジェクトのように、オフラインでのプログラム自動生成技術は、溶接や塗装、組み立てなど、品種ごとにティーチングが必要な他の多くの工程にも応用できる考え方です。
  • DXの本質は業務プロセスの再設計:この事例は、デジタルトランスフォーメーション(DX)が単なるITツールの導入ではなく、設計思想から製造プロセス全体を見直し、再設計する活動であることを示しています。技術部門と製造現場が一体となり、データに基づいたものづくりプロセスを構築していく視点が求められます。
  • 品質保証とトレーサビリティの強化:設計データから製造実績までがデジタルで一貫して記録されることは、品質のトレーサビリティを飛躍的に向上させます。万が一の不具合発生時にも、原因究明を迅速かつ正確に行うことが可能となり、これは特に高い品質が求められる製品において極めて重要です。

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