海外M&A事例に学ぶ「垂直統合」の価値とは ―米国家具メーカーの買収から考える事業戦略―

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米国の投資会社が、垂直統合型の家具メーカーを買収した事例が報じられました。このニュースを起点に、製造業における「垂直統合」という事業モデルの意義と、近年のサプライチェーンの変化を踏まえた日本の製造業への示唆を考察します。

米投資会社による家具メーカーの買収

先日、米国の投資会社サウスワース・キャピタル・マネジメントが、アメリカン・ファニチャー・マニュファクチャリング(AFM)社を買収したことが報じられました。AFM社はミシシッピ州に本社を構える家具メーカーですが、特筆すべきは、同社が「垂直統合型(Vertically Integrated)」の事業を構築している点です。これは、原材料の調達から生産、そして販売に至るまで、サプライチェーンの多くの工程を自社グループ内で完結させるビジネスモデルを指します。

製造業における「垂直統合」モデルの意義

垂直統合モデルは、日本の製造業においても決して珍しいものではありません。かつて多くの大手メーカーが、部品を製造する系列会社を多数抱え、開発から組立、販売まで一貫して手掛けることで、高い品質と安定供給を実現してきました。このモデルの主な利点は以下の通りです。

  • 品質管理の徹底: サプライチェーン全体を自社の管理下に置くことで、各工程での品質基準を統一し、最終製品の品質を安定させやすくなります。
  • 納期・生産管理の柔軟性: 外部のサプライヤーの都合に左右されにくく、需要変動に応じた柔軟な生産計画の調整が可能になります。
  • 技術・ノウハウの蓄積: 部品から完成品に至るまでの技術やノウハウが社内に蓄積され、ブラックボックス化を防ぎ、製品開発力の源泉となります。
  • コスト構造の透明化: 各工程のコストを把握しやすく、全体最適の視点でのコスト削減活動を進めやすくなります。

一方で、すべての工程を自社で抱えることは、多額の設備投資や人員が必要となり、経営資源が分散するリスクも伴います。また、市場や技術の変化が激しい分野では、自社の不得意な工程が足かせとなり、変化への対応が遅れるというデメリットも指摘されてきました。そのため、近年では効率性を重視し、得意分野に特化して外部の専門企業と連携する「水平分業」モデルが主流となりつつありました。

なぜ今、垂直統合が注目されるのか

今回の買収事例で興味深いのは、投資会社が垂直統合型の製造業を評価したという点です。これは、近年のグローバルなサプライチェーンの混乱と無関係ではないでしょう。コロナ禍や地政学リスクの高まりにより、部品供給の遅延や停止が事業に深刻な影響を与える事態が頻発しました。このような状況下で、サプライチェーンを自社の管理下に置き、供給の安定性を確保している垂直統合モデルの事業継続性(BCP)における強みが再評価されていると考えられます。
投資会社の視点からは、サプライチェーンの安定性に加え、各工程に改善のメスを入れることで、企業価値を大きく向上させる余地がある、という判断が働いた可能性も考えられます。

日本の製造業への示唆

今回の事例は、日本の製造業にとっても示唆に富むものです。効率一辺倒で進めてきたアウトソーシングやグローバル調達のあり方を、改めて見直す時期に来ているのかもしれません。以下に、本件から得られる実務的な視点を整理します。

1. サプライチェーン戦略の再評価
自社の製品にとって、コアとなる技術や品質を左右する重要な部品・工程は何かを改めて定義することが重要です。そして、その重要工程については、外部委託のリスクと内製化(あるいは国内の信頼できるパートナーとの連携強化)のコストを天秤にかけ、サプライチェーン全体の強靭化を図るべきでしょう。すべての工程を内製化するのではなく、重要度に応じた最適な生産・調達体制を再構築する視点が求められます。

2. 事業価値の客観的な把握
投資会社が製造業を評価するように、我々自身も自社の事業を客観的に評価する必要があります。単に製品の品質や技術力だけでなく、「安定したサプライチェーン」や「一貫生産によるノウハウの蓄積」といった要素も、企業価値を構成する重要な無形資産です。自社の強みがどこにあるのかを再認識し、それをいかに維持・強化していくかを考えることが、持続的な成長につながります。

3. M&Aという選択肢
今回の事例は買収される側でしたが、逆に自社の弱点を補完したり、新たな技術や販路を獲得したりするために、M&Aは有効な手段となり得ます。特に事業承継問題を抱える中小製造業においては、他社との統合によって事業基盤を強化するという選択肢も、より現実的なものとして検討する価値があるでしょう。

外部環境が目まぐるしく変化する中で、かつての成功モデルであった垂直統合の価値が見直されています。自社の事業モデルの強みと弱みを冷静に分析し、将来を見据えた最適なサプライチェーンを構築していくことが、これからの日本の製造業に求められています。

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