米国のエネルギー貯蔵企業NeoVolta社は、BESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)メーカーのPotisEdge社、およびその親会社である中国の再生可能エネルギー大手LONGi社と合弁会社を設立し、米国ジョージア州でBESSの生産を開始することを発表しました。この動きは、米国の政策を背景としたクリーンエネルギー関連製品のサプライチェーン再編と、国際的な企業連携の新たな形を示すものとして注目されます。
合弁事業の概要と各社の役割
発表によれば、新たに設立される合弁会社「NeoVolta Power」は、米国市場向けの家庭用および商業用BESSの製造を手掛けます。この連携において、米国のNeoVolta社は主にブランド力と米国内の販売網を提供し、市場へのアクセスを担います。一方、製造技術とサプライチェーンの構築は、BESSメーカーであるPotisEdge社と、その大株主であり太陽光パネルで世界的な実績を持つLONGi社が主導するものと見られます。異業種の知見と、米中企業のそれぞれの強みを組み合わせた戦略的な提携と言えるでしょう。
生産拠点としての米国ジョージア州
生産拠点がジョージア州に置かれるという点も、現在の製造業の潮流を理解する上で重要なポイントです。米国では現在、IRA(インフレ抑制法)により、クリーンエネルギー関連製品の国内生産に対して多額の税額控除などの優遇措置が設けられています。今回の工場設立は、この政策インセンティブを最大限に活用し、米国市場での価格競争力を確保する狙いが大きいと考えられます。特にBESSは、IRAの対象となる主要製品の一つです。
また、ジョージア州は近年、韓国の現代自動車、SK On、LG Energy Solutionといった企業による大規模な投資が相次ぎ、EV(電気自動車)およびバッテリー産業の一大集積地(クラスター)となりつつあります。こうした産業集積地では、部品のサプライヤーや専門知識を持つ人材の確保、物流網の活用といった面で有利に事業を進めることができます。今回の立地選定は、こうしたサプライチェーン上のメリットを考慮した戦略的な判断であると推察されます。
太陽光大手LONGiの戦略的意図
この合弁事業において、太陽光パネルの巨人であるLONGi社が参画している点は注目に値します。同社は太陽光パネル事業に加え、近年はエネルギー貯蔵システム分野への事業多角化を積極的に進めています。再生可能エネルギーの普及には、発電量の変動を吸収する蓄電システムが不可欠であり、BESS市場は今後の大きな成長が見込まれるためです。
また、米中間の貿易摩擦が続くなか、中国企業が単独で米国に大規模な製造拠点を設けることには政治的な障壁も伴います。米国のNeoVolta社との合弁という形態をとることで、こうしたリスクを低減しつつ、巨大な米国市場へのアクセスを確保するという戦略的な意図も見て取れます。これは、グローバルな事業展開を行う上での一つの巧みな手法と言えるかもしれません。
日本の製造業への示唆
今回の事例は、日本の製造業にとってもいくつかの重要な示唆を含んでいます。
1. サプライチェーンの現地化・ブロック化への対応: IRAのような政策主導により、主要市場での「地産地消」の流れは今後さらに加速することが予想されます。特に、エネルギー、半導体、EVといった戦略分野においては、輸出に依存した従来の事業モデルの見直しが迫られる可能性があります。自社の製品供給網が、こうした地政学的な変化にどう対応すべきか、改めて検討する時期に来ています。
2. 国際連携による市場参入とリスクヘッジ: 自社の技術やブランド力だけでは攻略が難しい市場に対し、現地の企業や異なる強みを持つ海外企業との提携・合弁は有効な手段です。特に、今回の事例のように政治的・貿易的な障壁が存在する市場においては、現地企業との連携が事業リスクを低減し、円滑な市場参入を可能にすることを教えてくれます。
3. 産業クラスターの活用: 海外に生産拠点を設ける際、単にコストだけで立地を判断するのではなく、特定の産業が集積する「クラスター」の動向を注視することが重要です。サプライチェーンの強靭化や、高度な技術を持つ人材の確保という観点から、産業集積地への戦略的な進出は、事業の成否を分ける重要な要素となり得ます。


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