オーストラリアで、ファッション・繊維分野における「国家製造戦略」の策定が最終段階に入ったと報じられました。この動きは、グローバルなサプライチェーンのリスクが顕在化する中で、先進国が国内製造業の価値を再評価している大きな潮流の一端を示すものです。
オーストラリアで進む、国家主導の製造業強化
先日、オーストラリアの業界紙において、同国のファッション・繊維業界向けの「国家製造戦略(National Manufacturing Strategy)」が最終検証段階に入ったことが報じられました。この業界は、オーストラリアにおいて年間272億ドル(約2.8兆円規模)の経済貢献をもたらす重要な基幹産業の一つとされています。今回の戦略策定は、国として特定の産業分野における国内の製造基盤を維持・強化しようとする明確な意志の表れと言えるでしょう。
これまで多くの先進国では、コスト効率を最優先し、生産拠点を海外へ移管するグローバル化が主流でした。しかし、近年の地政学リスクの高まりや、コロナ禍で露呈したサプライチェーンの脆弱性を受け、経済安全保障の観点から国内生産の重要性が見直されています。オーストラリアのこの動きも、そうした世界的な潮流の中に位置づけられるものと考えられます。
なぜ「ファッション・繊維」が対象なのか
ここで注目すべきは、対象が半導体のようなハイテク戦略分野だけでなく、比較的労働集約型と見なされてきたファッション・繊維業界であるという点です。これは、製造業の国内回帰が単なる経済安全保障上の要請だけではなく、より多面的な目的を持っていることを示唆しています。
考えられる目的としては、国内雇用の創出、長年培われてきた製造技術や技能の承継、そして「Made in Australia」というブランド価値の再構築による高付加価値化が挙げられます。また、サプライチェーンが短縮されることによる環境負荷の低減や、サステナビリティへの貢献といった視点も含まれている可能性があります。これは、私たち日本の製造業、特に独自の技術や品質を強みとする中小企業にとっても、大いに参考になる視点ではないでしょうか。
自社の立ち位置を見つめ直す機会に
今回のオーストラリアの事例は、一国の特定産業の話にとどまりません。政府が産業政策として国内製造業の支援に乗り出すという流れは、今後、様々な国や地域で加速する可能性があります。日本においても、すでに半導体や蓄電池などの分野で大規模な国内投資支援策が打ち出されていますが、他の産業分野にも同様の動きが広がる可能性は否定できません。
私たち製造業に携わる者は、自社のサプライチェーンの現状を改めて評価し、国内生産が持つリスク耐性や品質、技術承継といった無形の価値を再認識する必要があります。コストのみで海外生産の優位性を判断する時代から、より複合的な要素で国内外の生産拠点の最適なバランスを模索する時代へと、確実に移行しつつあると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のオーストラリアの事例から、日本の製造業が学ぶべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. サプライチェーンの再評価と強靭化:
コスト効率一辺倒で構築されたグローバルサプライチェーンに潜むリスクを再評価する時期に来ています。地政学リスクや自然災害など、不測の事態に備え、国内生産拠点の維持や代替調達先の確保など、サプライチェーン全体の強靭化(レジリエンス)を具体的に検討すべきです。特に、基幹部品や重要工程の国内保有は、事業継続計画(BCP)の観点からも重要性が増しています。
2. 「メイド・イン・ジャパン」の価値の再定義:
海外生産品との単純な価格競争から脱却し、国内生産だからこそ実現できる品質、短納期、きめ細やかな顧客対応、そして技術の信頼性といった付加価値を改めて明確にし、顧客に訴求していく必要があります。技能承継や国内雇用への貢献、環境配慮といった側面も、企業のブランド価値を高める重要な要素となります。
3. 官民連携と政策動向の注視:
一企業の努力だけでは、国内生産の維持・強化には限界があります。オーストラリアの事例のように、国や業界団体を巻き込んだ戦略的な取り組みが不可欠です。自社が属する業界の政策動向や、政府・自治体が提供する補助金、税制優遇などの支援策を常に注視し、積極的に活用していく視点が経営層には求められます。
4. デジタル技術の活用による国内生産性の向上:
国内の高い人件費を吸収し、生産性を向上させるためには、IoTやAI、ロボットといったデジタル技術の活用が鍵となります。スマートファクトリー化を進めることで、品質の安定化、生産効率の向上、そして技能承継の円滑化を図り、国内生産の競争力を高めていくことが重要です。


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