ベトナムの農業分野で、通信インフラの脆弱性がデジタルツールの導入を妨げているとの報道がありました。この事例は、日本の製造業が海外拠点でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で直面しがちな、インフラという根本的な課題を浮き彫りにしています。
ベトナム農業の成長を阻む「インフラの壁」
先日、ベトナムの国営メディアは、同国の農業成長を促進するための規制緩和を農家が求めていると報じました。その中で、成長を阻害する要因の一つとして「農村部における脆弱な通信インフラ」が挙げられています。具体的には、このインフラの弱さが、生産管理を高度化するためのデジタルツール導入の障壁になっているというのです。これは、農業という第一次産業においても、データに基づいた生産管理の重要性が認識されている一方で、その基盤となるインフラ整備が追いついていない現実を示唆しています。
海外生産拠点におけるDX推進の共通課題
このベトSナムの事例は、日本の製造業がASEAN諸国をはじめとする海外に生産拠点を展開する上で、決して他人事ではありません。日本本社の主導で最新のスマートファクトリー構想やIoTを活用した生産ラインの「見える化」を計画しても、現地のインフラがその構想の前提条件を満たしていないケースは少なくないのです。特に、都市部から離れた工業団地などでは、通信速度や安定性が期待値を下回ることがあります。また、通信インフラだけでなく、電力供給の安定性、物流網の整備状況なども、高度な生産システムを稼働させる上での制約となり得ます。
日本国内と同じ感覚でクラウドベースの生産管理システム(MES)やリアルタイムでのデータ収集・分析基盤の導入を計画すると、「データが頻繁に欠損して使い物にならない」「停電でシステムが停止し、生産計画に支障をきたす」といった事態に陥りかねません。デジタル化やDXの推進は、こうした物理的なインフラという土台の上に成り立つものであることを、改めて認識する必要があります。
インフラ制約下での現実的なアプローチ
では、インフラに制約がある海外拠点でデジタル化を進めるには、どうすればよいのでしょうか。一つの解は、現地の環境に合わせた段階的かつ現実的なアプローチをとることです。例えば、いきなり大規模なクラウドシステムを目指すのではなく、まずは工場内で閉じたネットワーク(オンプレミス)でデータを収集・活用する仕組みを構築することが考えられます。また、通信が不安定なことを前提とし、データを一時的に現場の端末(エッジデバイス)に蓄積し、通信が安定したタイミングでまとめてサーバーに送信する、いわゆるエッジコンピューティングの考え方も有効です。
重要なのは、DX計画の立案段階で、現地のインフラ環境を徹底的に調査・評価することです。カタログスペック上の通信速度だけでなく、実際の安定性や時間帯による変動などを実地で確認し、起こりうるリスクを洗い出した上で、それに耐えうるシステムアーキテクチャを設計することが求められます。机上の空論で終わらせないためには、現地スタッフからのヒアリングも不可欠と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のベトナムの事例から、日本の製造業が得られる実務的な示唆を以下に整理します。
1. 海外拠点のインフラ評価の徹底:
DXやスマートファクトリー化の計画に先立ち、対象拠点の通信、電力、物流といったインフラの実態を詳細に評価することが不可欠です。特に、安定供給や実効速度といった「質」の側面を現地現物で確認する必要があります。
2. 現地環境に即した段階的な導入計画:
日本本社が理想とする最新の仕組みをそのまま持ち込むのではなく、現地のインフラレベルに合わせた現実的なロードマップを描くべきです。まずは基幹システムの安定稼働や、ローカルでのデータ活用など、足元を固めることから始める視点が重要です。
3. 技術選定における柔軟な思考:
クラウド活用が主流となりつつありますが、海外拠点の状況によっては、オンプレミスやエッジコンピューティングといった技術が最適な解となる場合があります。前提条件に固執せず、現地の制約を乗り越えるための柔軟な技術選定が求められます。
4. 現地法人・スタッフとの緊密な連携:
インフラの課題や実情を最もよく知るのは、日々その環境で業務にあたっている現地スタッフです。計画の初期段階から彼らを巻き込み、実情に即した計画を共に作り上げることで、導入後のミスマッチを防ぐことができます。


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