米国防総省、アディティブ・マニュファクチャリング(AM)の新たなセキュリティ・調達基準を策定

global

米国防総省(DoD)は、アディティブ・マニュファクチャリング(AM)技術の活用におけるセキュリティとサプライチェーンに関する新たな規則を策定しました。この動きは、AM技術が試作段階から重要部品の本格的な生産へと移行する中で、サプライチェーン全体の信頼性確保が極めて重要になっていることを示しています。

国防分野で加速するAM活用と、それに伴う新たなリスク

米国防総省(DoD)がアディティブ・マニュファクチャリング(AM、いわゆる3Dプリンティング)に関するセキュリティと調達(ソーシング)の規則を新たに定めたことが報じられました。これは、国防という機密性と信頼性が最重要視される分野において、AM技術の活用を本格化させる上での基盤整備と位置づけられます。航空宇宙・防衛産業では、既に補修部品や一部の新規部品の製造にAMが活用されていますが、その適用範囲が広がるにつれて、新たなリスクへの対応が不可欠となってきました。

AMは、設計データから直接製品を製造するデジタル・マニュファクチャリングの中核技術です。その特性上、サイバーセキュリティのリスクと常に隣り合わせです。設計データの窃取や改ざんは、そのまま製品の欠陥や機能不全に直結します。また、使用される金属粉末などの材料や製造装置そのものが、信頼性の低い供給元から調達された場合、意図せざる脆弱性が製品に埋め込まれる可能性も否定できません。今回のDoDの規則は、こうしたサイバー空間と物理空間にまたがるリスクを網羅的に管理することを目的としていると考えられます。

規則が示す「サプライチェーン全体の信頼性」という視点

今回の規則で特に注目すべきは、「セキュリティ」と「ソーシング(調達)」が一体で語られている点です。これは、単に製造プロセス中のデータを保護するだけでなく、材料の出自から製造装置の供給元、そして完成品に至るまでのサプライチェーン全体で信頼性を確保しようという強い意志の表れです。具体的には、以下のような要件がサプライヤーに課されることが想定されます。

  • データ管理の厳格化: 設計データ(CAD/CAM)や製造パラメータの暗号化、アクセス制御、変更履歴の完全な記録。
  • 製造プロセスの保全: 製造中の不正な操作や意図的な欠陥混入を防ぐための監視・記録システムの導入。
  • 信頼できる調達先の限定: 使用する金属粉末や製造装置、ソフトウェアについて、信頼できる国や企業からの調達を義務付ける、いわゆる「トラステッド・サプライヤー」の考え方。
  • トレーサビリティの確保: 材料のロットから製造条件、品質検査結果までを製品個体と紐づけて追跡できる仕組みの構築。

これらの要求は、従来の品質管理の枠組みを超え、経済安全保障の観点をも含んだものとなっています。日本の製造業においても、防衛分野に限らず、半導体や医療機器、航空機といった重要産業では、同様の考え方が今後ますます重要になるでしょう。

対岸の火事ではない、日本の製造現場への影響

このDoDの動きは、グローバルなサプライチェーンに参加する日本の製造業にとって、決して他人事ではありません。特に、米国企業や防衛関連産業と取引のある企業は、将来的に同様の厳格なセキュリティ・調達基準への準拠を求められる可能性があります。これは、一次サプライヤーだけでなく、その先の二次、三次のサプライヤーにまで影響が及ぶ可能性があります。

自社の工場でAM技術を活用している、あるいは導入を検討している企業は、この機会に自社の管理体制を見直すことが賢明です。例えば、「AM装置は社内ネットワークに接続されているが、セキュリティ対策は十分か」「設計データの管理ルールは明確か」「材料の仕入れ先選定において、性能やコスト以外のリスク評価を行っているか」といった点を再点検する必要があるでしょう。顧客からの要求がなくとも、自社の技術と製品の信頼性を守るために、こうした視点を持つことが今後の競争力を左右する重要な要素となります。

日本の製造業への示唆

今回の米国防総省の動きから、日本の製造業が読み取るべき要点と実務的な示唆を以下に整理します。

  • AMは「サプライチェーン戦略」の一部へ: AMはもはや単なる製造技術の一つではありません。その活用は、サプライチェーン全体のセキュリティやレジリエンス(強靭性)を考慮した戦略的な位置づけが求められます。技術導入の際には、サイバーセキュリティや調達リスク管理の専門家も交えた検討が不可欠です。
  • デジタル・スレッドのセキュリティ確保: 設計から製造、検査、出荷に至るまでの一連のデジタルデータの流れ(デジタル・スレッド)全体を保護する視点が重要になります。個別の対策だけでなく、プロセス全体のセキュリティアーキテクチャを構築することが求められます。
  • 調達先の多元化と信頼性評価: コストや納期だけでなく、サプライヤーの信頼性や地政学的なリスクを評価基準に加える必要があります。特定の国や地域に依存した調達構造を見直し、信頼できるパートナーとの関係を深化させることが、事業継続の鍵となります。
  • 業界標準化への備え: 今回のような国家主導の動きは、やがて業界標準や国際規格(ISO/ASTMなど)へと発展していく可能性があります。国内外の規格策定の動向を注視し、早期に対応できる体制を整えておくことが、将来のビジネス機会を失わないために重要です。

AM技術の普及は、ものづくりの可能性を大きく広げる一方で、我々製造業に新たな管理責任を課しています。技術の利便性だけに目を向けるのではなく、その裏側にあるリスクを直視し、堅牢な管理体制を構築していくことが、これからの製造業には強く求められるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました