中国の最新「省別・産業連関データベース」公開が意味するものとは

global

科学技術誌「Scientific Data」にて、中国の31省を対象とした2018年および2020年の多地域産業連関データベースが公開されました。このデータは、複雑化する中国国内のサプライチェーンを定量的に分析するための新たな基盤となり、日本の製造業にとっても重要な示唆を与えてくれます。

中国の地域経済を解き明かす新たな分析基盤

このたび、中国の31の省・直轄市・自治区を網羅する、42産業部門別の多地域産業連関(Multi-Regional Input-Output, MRIO)データベースが公開されました。2018年と2020年のデータが含まれており、中国国内における地域間の経済的な相互依存関係を詳細に分析することが可能になります。

産業連関表とは、ある産業の生産活動が、他のどの産業からどれだけの原材料やサービスを投入(購入)し、どの産業にどれだけ生産物を産出(販売)したかを行列形式で表した統計表です。これが「多地域」となることで、例えば「江蘇省の機械産業が、広東省の電子部品産業からどれだけ購入し、四川省の自動車産業にどれだけ販売したか」といった、地域をまたぐモノとサービスの取引構造まで把握できるようになります。これまで国全体の統計では見えにくかった、中国国内の複雑なサプライチェーンの姿を浮き彫りにする貴重なデータと言えるでしょう。

なぜ「国」ではなく「省」単位のデータが重要なのか

日本の製造業にとって、中国は重要な生産拠点であり、同時に巨大な市場でもあります。しかし、私たちは「中国」と一括りにしてしまいがちです。実際には、沿岸部と内陸部、あるいは華南と華北では、産業の集積度、技術レベル、人件費、物流インフラなどが大きく異なります。

例えば、自社の一次サプライヤーが上海市に立地している場合、そのサプライヤーが必要とする部品や素材は、上海市内で完結しているわけではありません。多くは江蘇省や浙江省、さらには遠く内陸部の省からも調達されているはずです。今回のデータベースを活用することで、自社のサプライヤーが立脚している地域の産業構造だけでなく、その背後にあるさらに広域な供給網(サプライチェーンの上流)の姿を、データに基づいて推測することが可能になります。これは、これまで現場担当者の経験や感覚に頼ることが多かった領域に、客観的な分析の視点をもたらすものです。

サプライチェーンの実務における応用可能性

この新しいデータベースは、具体的な実務において様々な応用が考えられます。

まず、サプライチェーンのリスク評価の高度化です。特定の省でロックダウンや自然災害、電力不足などが発生した場合、その影響がどの地域、どの産業に、どの程度の規模で波及していくかをシミュレーションする際の基礎データとなり得ます。これにより、自社のサプライチェーンにおける潜在的なボトルネックや脆弱性を特定し、より実効性の高いBCP(事業継続計画)を策定する一助となるでしょう。

次に、調達戦略の最適化です。新規サプライヤーの開拓や生産拠点の移管を検討する際、候補となる省が持つ産業基盤の強さや、周辺地域との連携の密接さを定量的に評価できます。単に個々の企業を評価するだけでなく、その企業が属する地域全体の産業エコシステムを評価するという、よりマクロな視点での意思決定が可能になります。

さらに、近年重要性が増しているカーボンフットプリントの算定にも貢献します。自社のScope3(サプライチェーン全体での間接的な温室効果ガス排出量)を算出する際、特に把握が難しい中国国内のサプライヤーにおける排出量を、この産業連関データを用いてより精度高く推計できる可能性があります。これは、サステナビリティ経営を推進する上で重要な情報基盤となります。

日本の製造業への示唆

今回のデータベース公開が、日本の製造業の実務に与える示唆を以下に整理します。

1. 中国サプライチェーン分析の「解像度」向上:
国という大きな単位ではなく、「省」という、より現実に近い単位で中国の経済構造を理解する必要性が高まっています。このデータベースは、そのための強力な分析ツールとなります。これまで見えなかった地域間のつながりを可視化することで、より精緻な事業戦略や調達戦略の立案が可能になります。

2. データドリブンなリスク管理への移行:
経験や勘に頼りがちであった中国でのサプライチェーン管理を、データに基づいた客観的な評価へと転換する好機です。特に、地政学リスクやパンデミックなど、予測困難な事態に対するサプライチェーンの強靭性(レジリエンス)を評価・強化する上で、こうしたマクロデータは非常に有用です。

3. マクロ分析とミクロな現場知見の融合:
もちろん、こうした統計データだけで全てがわかるわけではありません。しかし、データから得られるマクロな鳥瞰図と、調達担当者や現地駐在員が持つミクロな現場の知見を組み合わせることで、より複眼的で精度の高い意思決定が可能になるはずです。経営層や管理職は、自社のサプライチェーン担当部門に対し、こうした公開データを活用した分析を促していくことが望まれます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました