近年の世界的な混乱を受け、サプライチェーンの強靭性(レジリエンス)が製造業の重要課題となっています。本記事では、AI技術と新興国市場という二つの視点から、未来のサプライチェーンのあり方を考察し、日本の製造業が採るべき方策について論じます。
サプライチェーンにおける「レジリエンス」の重要性
これまで多くの製造業では、効率性を追求し、無駄を徹底的に排除する「ジャストインタイム」に代表されるようなサプライチェーンが理想とされてきました。しかし、近年のパンデミックや地政学的リスクの高まりは、こうした効率偏重のサプライチェーンが、予期せぬ寸断に対して極めて脆弱であることを露呈させました。その結果、コストやリードタイムといった従来の指標に加え、いかにサプライチェーンの寸断から迅速に回復し、事業を継続できるかという「レジリエンス(強靭性)」が、経営の最重要課題の一つとして認識されるようになっています。
AIがもたらすサプライチェーンの変革
サプライチェーンのレジリエンスを高める上で、鍵となる技術の一つが人工知能(AI)です。ニューメキシコ州立大学でオペレーション・生産管理を研究するPeace Aludogbu氏の研究は、まさにこのAIとサプライチェーン・レジリエンスの交差点に位置しています。AIは、過去のデータから需要を高い精度で予測するだけでなく、天候、市況、社会情勢といった膨大な外部要因をリアルタイムで分析し、将来のリスクを予見することにも活用できます。例えば、特定の地域での紛争リスクや異常気象の兆候を検知し、代替の調達先や輸送ルートを事前に提案するといった応用が考えられます。これは、熟練担当者の経験と勘に頼ってきたリスク管理を、データに基づいた科学的なアプローチへと進化させる可能性を秘めています。
新興国市場におけるサプライチェーンの課題と可能性
Aludogbu氏の研究が特に注目するのは、ナイジェリアをはじめとする新興国におけるサプライチェーンです。新興国では、インフラの未整備や不安定な政治経済状況など、先進国とは異なる種類の課題が山積しています。しかし、裏を返せば、これらの市場は既存のしがらみが少なく、最新のデジタル技術を導入しやすいという側面も持っています。AIやIoTといった技術を活用することで、物流の非効率性や情報の不透明性といった課題を飛び越え、一足飛びにレジリエントなサプライチェーンを構築できる「リープフロッグ現象」が期待されています。日本の製造業にとっても、新興国は単なる生産拠点や販売市場ではなく、サプライチェーン全体のリスクを分散し、レジリエンスを高めるための重要なパートナーとなり得るでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の考察から、日本の製造業が今後留意すべき点を以下に整理します。
1. レジリエンスを組み込んだサプライチェーンの再設計
従来の「効率性」一辺倒の考え方から脱却し、コストとのバランスを取りながらも、代替調達先の確保、在庫配置の最適化、生産拠点の分散化など、意図的に冗長性を持たせる設計思想が不可欠です。サプライチェーンの可視化を進め、どこにボトルネックやリスクが潜んでいるかを常に把握しておく体制づくりが求められます。
2. AI技術の実践的な活用
AIを単なる流行り言葉として捉えるのではなく、自社のサプライチェーンが抱える具体的な課題を解決するためのツールとして活用する視点が重要です。特に、予測不能な変動への対応力を高めるための「需要予測の高度化」や「リスクの早期検知」、「最適な対応策のシミュレーション」といった領域で、AIは大きな力を発揮すると考えられます。
3. 新興国市場への新たな視点
グローバルなサプライチェーン網を構築する上で、新興国市場の役割を再評価すべき時期に来ています。現地のインフラや制度の課題を理解した上で、デジタル技術を活用して現地のパートナーと共に新たなサプライチェーンモデルを構築していくような、より戦略的な関与が今後の成長の鍵となるかもしれません。


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