チリ国営コデルコ、リチウム事業に本格参入 – 電池サプライチェーンへの影響と日本の製造業がとるべき視点

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電気自動車(EV)向け電池の重要原料であるリチウムの供給地図が、大きく変わろうとしています。世界有数の産出国チリにおいて、国営銅公社コデルコが民間大手SQMとの合弁事業を通じてリチウム生産に本格参入します。この動きが、日本の製造業のサプライチェーンに与える影響を考察します。

背景:チリにおけるリチウム国家戦略の本格化

世界最大級の銅生産量を誇るチリの国営企業コデルコ(Codelco)が、リチウム事業への本格参入に向けた具体的な一歩を踏み出しました。同社は、チリでリチウム生産を手掛ける民間最大手SQMとの間で合弁事業を設立することで合意しました。これは、チリ政府が推進するリチウム資源の国家管理強化という大きな戦略の一環であり、今後の電池材料サプライチェーンに大きな影響を与える可能性があります。

技術と経験の獲得を目指す現実的な一手

今回の提携の核心は、コデルコがリチウム生産の知見を迅速に獲得する点にあります。元記事が指摘するように、このパートナーシップは、コデルコに「リチウム事業への即時的な関与」を可能にすると同時に、「生産管理能力の拡大に向けた体制構築」を進めるためのものです。銅の採掘・精錬では世界的な実績を持つコデルコですが、リチウムの生産、特に高純度が求められるバッテリー向け炭酸リチウムや水酸化リチウムの製造技術は持ち合わせていません。そこで、既にアタカマ塩湖で大規模な生産実績を持つSQMの技術力や操業ノウハウを取り込むという、極めて現実的な戦略を選択したと言えるでしょう。これは、日本の製造業においても、新規事業分野へ進出する際に、先行する企業との技術提携やM&Aを通じて時間と開発リスクを低減する手法と共通しています。

今後のサプライチェーンへの影響

この合弁事業の設立により、チリにおけるリチウム生産の主導権は、徐々に民間企業から国家へと移っていくことが予想されます。短期的にはSQMによる生産活動が継続されるため、市場への供給が直ちに滞ることは考えにくいですが、中長期的には契約条件の見直しや、新たな供給先の選定において、チリ政府の意向がより強く反映される可能性があります。日本の電池メーカーや自動車メーカーにとっては、これまでSQMという民間企業と行ってきた交渉の相手に、国営企業という新たな主体が加わることを意味します。これは、調達戦略の見直しを迫る要因となり得ます。

日本の製造業への示唆

今回のチリでの動きは、日本の製造業、特にEVや蓄電池に関わる企業にとって、いくつかの重要な示唆を与えています。

第一に、サプライチェーン上流における地政学リスクの再認識です。自国の資源を国家管理下に置こうとする動きは、リチウムに限らず他の鉱物資源でも起こり得ます。自社製品に不可欠な原材料が、どこで、誰によって、どのような方針のもとで生産されているのかを改めて把握し、その変動要因を監視する体制が不可欠です。

第二に、調達戦略の再評価と強靭化です。特定の国や企業への依存度が高い場合、今回のような政策変更が事業継続のリスクに直結します。供給元の複線化や、リサイクル原料の活用、さらにはリチウム以外の材料を用いる次世代電池の研究開発といった取り組みの重要性が一層高まっています。

第三に、変化を新たな事業機会と捉える視点です。コデルコという新しいプレーヤーの登場は、リスクであると同時に、新たなビジネスパートナーシップを構築する好機と捉えることもできます。日本の持つ高度な電池技術や品質管理ノウハウを活かし、技術協力や共同開発といった形で関与していく道も考えられるでしょう。サプライチェーンの変化を的確に捉え、能動的に対応していく姿勢が求められます。

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