米国では、サプライチェーンのリスク軽減と国内製造業の雇用創出を目的とした政策が、党派を超えて推進されています。EV・バッテリー関連の投資が集まるジョージア州の動向は、米国の大きな方針転換を示すものであり、日本の製造業にとっても重要な意味を持ちます。
超党派で進む米国の国内製造業支援
先日、米国ジョージア州選出のジョン・オソフ上院議員の事務所が発表したプレスリリースに、現在の米国の産業政策の方向性を示す興味深い一文がありました。それは、「この超党派の法案は、それらのリスクを軽減するための措置を講じると同時に、ジョージア州および全国で新たな製造業の雇用機会を創出するのに役立つだろう」というものです。
ここで注目すべきは、「超党派(bipartisan)」という言葉です。これは、国内の製造業基盤の強化とサプライチェーンの強靭化が、特定の政党の政策ではなく、国家的な重要課題としてコンセンサスを得ていることを示唆しています。近年の地政学的な緊張の高まりや、パンデミックを通じて明らかになった特定国への過度な依存の脆弱性が、この動きを加速させていると考えられます。
政策の二本柱:リスク軽減と国内雇用
この法案が目指すものは、大きく二つに整理できます。一つは「リスクの軽減」です。ここで言うリスクとは、海外からの部品や原材料の供給が滞る地政学的リスクや物流寸断リスクを指していると捉えるのが自然でしょう。特に、半導体やバッテリー、重要鉱物といった戦略物資において、調達先を国内や同盟国にシフトさせようという意図が明確に見て取れます。
もう一つは「国内の雇用創出」です。これは単に経済対策という側面に留まりません。国内に生産拠点を維持・拡大することは、技術やノウハウの流出を防ぎ、次世代の技術者を育成する土壌を確保するという、長期的な産業競争力、ひいては国家安全保障の観点からも極めて重要です。
「バッテリーベルト」の中心地、ジョージア州の動向
ジョージア州は、近年、韓国の現代自動車グループやSKオン、米国のリビアンといったEV・バッテリー関連企業の大型投資が相次ぎ、「バッテリーベルト」と呼ばれる新興産業集積地帯の中核を担っています。今回の法案も、こうした大規模な民間投資を後押しし、関連するサプライチェーン全体を州内および国内に構築しようという狙いがあるものと考えられます。
この動きは、現地に進出している日本の自動車部品メーカーなどにとっては、事業機会の拡大につながる可能性があります。一方で、米国内でのサプライヤー選定や部材調達を求める圧力が強まる可能性も否定できません。現地の政策や規制の動向を注視し、サプライチェーン戦略を柔軟に見直していくことが求められます。
日本の製造業への示唆
今回の米国の動向から、日本の製造業が考慮すべき点を以下に整理します。
1. サプライチェーン戦略の再評価
米国市場向けの製品供給において、従来のグローバルな最適調達・最適生産という考え方だけでなく、地政学的なリスクを織り込んだ「経済安全保障」の視点が不可欠になっています。IRA(インフレ削減法)のような具体的なインセンティブや規制と合わせ、米国での現地生産や、信頼できる同盟国・友好国からの調達(フレンドショアリング)の比重を高める検討が急務と言えるでしょう。
2. 米国への投資判断における新たな視点
米国への工場進出や設備投資を計画する際には、連邦政府や州政府が提供する補助金、税制優遇といった支援策を最大限活用する視点が重要です。同時に、現地での人材確保や労務管理、部材の現地調達率など、新たな要求事項への対応も事業計画に織り込む必要があります。
3. 調達リスク管理の高度化
特定国への依存度が高い部品や素材については、代替ソースの探索や調達先の複線化を、これまで以上に具体的に進めるべき時期に来ています。米国の政策は、こうしたグローバルなサプライチェーン再編の動きが、一過性のものではないことを明確に示しています。自社の調達網を改めて精査し、脆弱性を洗い出しておくことが、将来の不確実性に対する備えとなります。


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