ベトナム南部のカントー地方で、ハーブを飼料に用いたユニークな養鶏が注目されています。抗生物質を使わずに高品質な鶏卵を生産するこの取り組みは、異業種の事例ながら、日本の製造業が直面する課題解決のヒントに満ちています。
原材料の工夫で生まれる独自の価値
ベトナムのカントー地方で、ある養鶏農家が「アラウカナ鶏」という南米原産の品種を飼育し、栄養価が高くコレステロールが低いとされる「青い卵」を生産しています。この事例の最大の特徴は、鶏の飼料にあります。一般的な配合飼料や抗生物質に頼るのではなく、ニンニク、ショウガ、ウコンといった天然のハーブを独自に配合して与えているのです。
この取り組みにより、鶏の免疫力を自然に高め、健康的で安全性の高い鶏卵の生産を実現しています。これは、私たち製造業における原材料選定の重要性を示唆しています。汎用的な材料から、環境負荷が低い、あるいは特定の機能性を持つ代替材料に切り替えることで、製品そのものに高い付加価値と競争優位性をもたらすことができるのです。化学薬品の使用を減らし、自然由来の素材を活用するアプローチは、今日のサステナビリティを重視する市場の要求とも合致するものです。
品質基準と柔軟な生産体制の両立
この養鶏場は、ベトナムの農業生産規範である「VietGAP」の基準に準拠した管理体制を敷いています。独自の生産方法を追求する一方で、公的な品質基準を遵守することで、消費者からの信頼を獲得しています。これは、独自の技術やノウハウを持つ工場が、ISOなどの国際規格認証を取得して品質を保証する体制と軌を一にするものです。
また、事業の立ち上げ方も示唆に富んでいます。最初は小規模な飼育から始め、市場の需要と手応えを確かめながら、段階的に1,000羽を超える規模まで拡大しました。最初から大規模な設備投資を行うのではなく、市場の反応を見ながら生産能力を柔軟に調整していくアプローチは、変化の激しい現代においてリスクを抑制し、着実な成長を遂げるための有効な戦略と言えるでしょう。これは、製造現場におけるリーン生産やアジャイル開発の考え方にも通じます。
製品から広がる事業の可能性
この農家は、高品質な鶏卵の生産・販売にとどまらず、その卵を使った塩漬け卵や卵酒といった加工品の開発も視野に入れています。さらに、将来的には観光農園としての展開も計画しており、生産現場そのものを体験価値として提供しようとしています。
これは、製造業における「モノ売り」から「コト売り」へのシフト、すなわち製品のサービス化(サービタイゼーション)に他なりません。自社のコア技術や製品を軸に、メンテナンス、ソリューション提案、あるいは体験サービスの提供へと事業領域を広げていくことで、新たな収益源を確保し、顧客との長期的な関係を築くことができます。ひとつの製品や技術から、いかにして事業のエコシステムを構築していくか。その好例がここにあると言えます。
日本の製造業への示唆
このベトナムの養鶏事例から、日本の製造業が学ぶべき要点は以下の通りです。
1. 原材料・素材の再評価による付加価値創出:
自社製品で使われている原材料を見直し、より安全性の高い、あるいは環境配慮型の代替素材を活用できないか検討する視点が重要です。素材の独自性が、製品の差別化とブランド価値の向上に直結します。
2. プロセスそのものを価値に変える:
「抗生物質不使用」という飼育プロセスが信頼性を生んだように、製造工程における環境や安全への配慮(例: 特定化学物質の不使用、再生可能エネルギーの利用)は、それ自体が顧客への強いメッセージとなり得ます。
3. 市場起点の柔軟な生産体制:
大規模な一括投資だけでなく、市場の需要に応じて段階的に生産能力を増強するリーンなアプローチは、特に新規事業やニッチ市場向け製品において有効です。変化への即応力を高める体制構築が求められます。
4. 事業の多角化とサービス化:
主力製品から派生する加工品や関連サービスの可能性を探ることは、事業の安定化と成長に繋がります。自社の生産現場や技術を、新たな体験価値として提供する道も考えられます。
異業種の小規模な事例ではありますが、ものづくりの原点に立ち返り、自社の強みを再定義する上で、多くのヒントを与えてくれる事例と言えるでしょう。

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