ロボットシステムインテグレーション市場、761億ドル規模へ — 現場実装を担うSIerの重要性が高まる

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ロボットシステムインテグレーションの市場が世界的に拡大を続けています。これは、単にロボットを導入するだけでなく、生産システム全体として機能させる「インテグレーション(統合)」の価値が、製造現場でますます重要になっていることを示唆しています。

世界で拡大するロボットシステムインテグレーション市場

海外の市場調査によると、ロボットシステムインテグレーション市場は761億米ドル規模に達するとの予測が発表されました。世界中の製造業において、生産性向上、人手不足への対応、品質の安定化などを目的に自動化への投資が加速しており、それに伴い、ロボットを生産ラインに適切に組み込むための技術・ノウハウの需要が急速に高まっています。

この市場成長の背景には、産業用ロボット本体の性能向上や低価格化に加え、協働ロボットのように、これまで導入が難しかった領域での活用が進んでいることがあります。しかし、ロボットは購入して電源を入れればすぐに使えるというものではありません。実際の生産活動に貢献する「戦力」とするためには、専門的な知見に基づいたシステム設計と統合が不可欠となります。

システムインテグレーター(SIer)の役割とは

ロボットシステムインテグレーター(SIer)は、ロボットを生産設備として機能させるための専門家集団です。その役割は、ロボット本体を販売することに留まりません。具体的には、顧客の生産プロセスを深く理解した上で、以下のようなエンドツーエンドのソリューションを提供します。

  • システム設計:生産課題の分析、最適なロボットや周辺機器(センサー、カメラ、コンベア等)の選定、安全対策を含めた全体レイアウトの設計。
  • 機器統合(インテグレーション):ロボット、周辺機器、既存設備を物理的・電気的に接続し、協調動作させるための制御システムを構築。
  • 試運転(コミッショニング):設計通りにシステムが稼働するかを検証し、ティーチングやパラメータ調整を通じて動作を最適化。
  • 生産管理システムとの連携:MES(製造実行システム)やPLC(プログラマブルロジックコントローラ)と連携させ、生産計画に基づいた自動運転や実績データ収集を可能にする。

いわゆる「ポン置き」と呼ばれるような、ロボットを単に設置しただけでは、多くの場合、期待した生産性向上には繋がりません。前後の工程とのスムーズな連携や、予期せぬトラブルへの対応、生産品目の変更への柔軟性などを考慮した、緻密なインテグレーションこそが、自動化投資の成否を分ける鍵となります。

日本の製造現場における課題とSIerへの期待

日本は世界有数のロボット利用国ですが、その活用は自動車産業などの大企業に集中している側面も否めません。多くの中小企業では、自動化の必要性を感じつつも、「導入コストが高い」「知見を持つ人材がいない」「どこに相談すれば良いか分からない」といった課題を抱えています。

また、日本の製造業の強みである変種変量生産や、熟練技能が求められる複雑な組立・検査工程などは、画一的な自動化が難しい領域とされてきました。こうした個別の現場ニーズに合わせたカスタムメイドの自動化システムを構築できる、質の高いSIerの存在が、国内製造業の競争力を維持・向上させる上で極めて重要です。

今後、労働人口の減少がさらに深刻化する中で、ロボットSIerには、単なる設備インテグレーターとしてだけでなく、顧客企業の生産プロセス全体を俯瞰し、共に課題解決に取り組む「パートナー」としての役割がますます期待されます。

日本の製造業への示唆

今回の市場予測から、日本の製造業関係者が留意すべき点を以下に整理します。

1. 自動化は「導入」から「活用」の段階へ
ロボットを導入すること自体が目的ではなくなっています。自社の生産プロセスに最適化された形でロボットをいかに「活用」し、生産性、品質、安全性を総合的に高めるか、というシステム全体の視点が不可欠です。投資計画の段階から、インテグレーションの難易度やコストを織り込んで検討することが求められます。

2. 信頼できるSIerとのパートナーシップが鍵
自社に自動化の知見が不足している場合、SIerの選定がプロジェクトの成否を大きく左右します。価格だけでなく、自社の業種や工程への理解度、過去の実績、導入後のサポート体制などを総合的に評価し、長期的な視点で協力できるパートナーを見つけることが重要です。

3. 投資対効果(ROI)の多角的な評価
ロボット導入の効果を、単純な人件費削減だけで測るべきではありません。品質の安定による不良率低下、生産リードタイムの短縮、技能継承問題の解決、作業者の負担軽減や安全確保といった、数値化しにくい定性的な効果も含めて、多角的に投資価値を評価する視点を持つことが、経営判断において重要となります。

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