インドのEV大手であるOla Electric社が、インド政府の生産連動型優遇策(PLI)に基づき、約36.7億ルピー(約68億円)の奨励金を獲得したことが報じられました。この動きは、インド政府が推進する「Make in India」構想と、同国におけるEV生産体制の急速な立ち上がりを象徴するものです。
概要:インドのEV大手、政府から大規模な生産奨励金
インドの電動二輪車市場を牽引するOla Electric社は、2025会計年度のEV製造推進を目的とした政府の生産連動型優遇策(PLI: Production Linked Incentive)の対象企業として認定され、36億6,780万ルピー(日本円で約68億円)の奨励金を獲得しました。同社の経営陣は、今回の認定を「自社の製造能力とEV分野における技術革新が公的に認められた証」と位置付けており、今後の生産拡大に向けた大きな弾みとなることが予想されます。
PLI(生産連動型優遇策)制度とは何か
PLI制度は、インド政府が国内製造業を強化するために導入した極めて戦略的な政策です。これは単なる設備投資への補助金とは異なり、対象企業が国内で製造した製品の売上増加分に対して、一定期間、奨励金を支給する仕組みです。つまり、「国内でより多く生産し、販売した企業」が報われる制度と言えます。この政策の狙いは、国内生産の促進、輸入依存度の低減、そしてインドをグローバルな製造ハブへと転換させる「Make in India」構想の実現にあります。自動車や電子部品、医薬品など、多くの戦略分野で導入が進んでおり、海外企業の投資誘致や国内企業の競争力強化を後押ししています。
インド市場と現地企業の動向
Ola Electric社は、ソフトバンクグループなどが出資する新興企業でありながら、巨大工場「Futurefactory」を建設するなど、大規模な生産体制の構築を急速に進めてきました。今回のPLI獲得は、同社のような現地企業が政府の強力な支援を受け、製造能力とコスト競争力を飛躍的に高めている現実を示しています。世界有数の人口を抱えるインド市場では、政府主導でEV化が強力に推進されており、市場の成長ポテンシャルは計り知れません。その中で、PLIのような政策は現地企業の成長を加速させ、市場の勢力図を大きく変える可能性があります。
日本の製造業への示唆
今回のニュースは、日本の製造業、特に自動車関連や電子部品メーカーにとって、無視できない重要な示唆を含んでいます。
1. インド市場戦略の再評価
インドを単なる「販売市場」としてだけでなく、「生産拠点」として再評価する必要性が高まっています。PLIのような制度を活用することで、現地生産のコストメリットを享受できる可能性があります。インド国内での生産・販売体制の構築は、今後の重要な経営課題となるでしょう。
2. サプライチェーンの現地化と強靭化
インド政府は国内でのサプライチェーン完結を目指しています。これは、日本から部品を輸出し、現地で組み立てるという従来のモデルが、将来的には関税や非関税障壁によって不利になる可能性を示唆します。現地調達率の向上や、重要部品の現地生産への切り替えなど、より踏み込んだサプライチェーン戦略が求められます。
3. 現地有力企業との競合と協業
Ola Electricのような現地企業は、政府の後押しを受けて強力な競合相手として台頭してきます。一方で、彼らの生産拡大は、高品質な部品や製造装置、生産管理ノウハウを持つ日本企業にとっては大きなビジネスチャンスともなり得ます。競合としての脅威を認識しつつ、協業やサプライヤーとしての参入機会を模索する視点も重要です。
4. 各国の産業政策への注視
インドのPLIに限らず、現在、世界各国で自国産業を保護・育成するための政策が強化されています。グローバルに事業を展開する企業は、こうした各国の政策動向を常に把握し、サプライチェーンや生産拠点の配置を柔軟に見直していくことが、事業継続におけるリスク管理の観点からも不可欠と言えるでしょう。


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