米国イリノイ州の製造業協会(IMA)が、新しい会長にカラ・デミルジャン・フス氏を任命しました。同氏の経歴は、グローバルマーケティングやサステナビリティ、政府関連業務といった分野にあり、この人事は現代の製造業が直面する課題とリーダーに求められる資質の変化を象徴していると言えるでしょう。
ニュースの概要
米国の主要な工業州の一つであるイリノイ州の製造業協会(Illinois Manufacturers’ Association, IMA)は、2025年の新会長として、TCCI Manufacturing社の上級副社長であるカラ・デミルジャン・フス氏を任命したことを発表しました。IMAは州の製造業を代表する有力な業界団体であり、そのトップ人事は業界の方向性を示すものとして注目されます。
注目される新会長の経歴と担当分野
特に注目すべきは、フス氏の専門分野です。彼女はTCCI Manufacturing社において、グローバルマーケティング、サステナビリティ、そして政府関連業務(Government Affairs)を担当しています。これは、伝統的に生産技術や工場運営の経験者が要職を占めることの多かった製造業のイメージとは少し異なります。
この背景には、現代の製造業が単に良い製品を効率的に作るだけでは立ち行かなくなっているという現実があります。具体的には、以下の3つの分野の重要性が増していることの表れと考えられます。
1. サステナビリティ: 環境問題や人権への配慮は、もはや企業の社会的責任(CSR)という枠を超え、事業継続のための必須要件となりつつあります。サプライチェーン全体でのCO2排出量削減や、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家への対応など、サステナビリティは経営戦略そのものに組み込まれるようになりました。
2. 政府関連業務(渉外活動): グローバル化が進む一方、米中対立や経済安全保障の観点から、各国の政策や規制が事業に与える影響は計り知れません。補助金制度の活用、通商問題への対応、新たな規制へのロビー活動など、政府や行政との関係構築は企業の競争力を左右する重要な機能です。
3. グローバルマーケティング: 高度な技術や品質を、いかにグローバル市場の顧客価値に結びつけ、伝えていくかという視点が不可欠です。市場のニーズを的確に捉え、ブランディングや販売戦略を構築する能力が、技術力と同じく重視されています。
製造業を取り巻く環境変化の反映
今回のIMAの会長人事は、製造業の経営課題が、工場の内側から外側へと大きく広がっていることを示唆しています。優れた生産現場を維持・改善することはもちろん重要ですが、それに加えて、複雑化する社会・経済・政治の動向にいかに対応していくかが、企業の持続的な成長の鍵を握ります。気候変動対策、地政学リスク、サプライチェーンの分断、顧客価値の多様化といった外部環境の変化に対し、企業として、また業界として、能動的に働きかけていく姿勢が求められているのです。
日本の製造業への示唆
この米国の事例は、日本の製造業にとっても多くの示唆を含んでいます。今後の事業運営や人材育成を考える上で、以下の点を考慮することが重要でしょう。
- リーダーシップの多様化: 経営層や工場の責任者には、生産現場や技術開発の経験者に加え、マーケティング、財務、法務、渉外など、多様な専門性を持つ人材を登用し、意思決定に複眼的な視点を取り入れることが求められます。
- サステナビリティの戦略的実践: 環境対応を単なるコストや規制遵守と捉えるのではなく、自社の技術力を活かした新たな事業機会や、企業価値向上の源泉と位置づける戦略的な取り組みが不可欠です。特にサプライヤーを含めたサプライチェーン全体での管理が鍵となります。
- 外部環境への感度と働きかけ: 国内外の政策動向や社会の変化を常に把握し、自社への影響を分析する体制を整えることが重要です。個社での対応が難しい課題については、業界団体などを通じて積極的に意見を発信し、事業環境を自ら形成していくという視点も必要になります。
- 次世代リーダーの育成: これからの製造業のリーダーには、現場のカイゼンを推進する能力に加え、マクロな視点で事業環境を理解し、社内外の多様なステークホルダーと対話しながら事業を前に進める能力が求められます。こうした複合的なスキルを持つ人材の育成が急務と言えるでしょう。


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