米国の製造業競争力を支える重要な官民連携プログラム「製造業普及パートナーシップ(MEP)」の予算執行が、監督官庁によって突如停止され、米国内で波紋が広がっています。この一件は、サプライチェーンにおける中小企業の重要性や、公的支援のあり方について、日本の製造業関係者にも多くの示唆を与えます。
米国で起きている中小製造業支援の混乱
2024年5月、米国の超党派の上院議員グループが、商務省と米国国立標準技術研究所(NIST)に対し、中小製造業の支援プログラムである「製造業普及パートナーシップ(MEP)」の予算執行を不当に停止したとして、説明を求める書簡を送付したことが明らかになりました。MEPは、全米51カ所のセンターを通じて、国内の中小製造業者に対し、技術革新、生産性向上、人材育成、サプライチェーンの最適化などを支援する、官民連携の重要なプログラムです。日本でいえば、各地の公設試験研究機関や中小企業支援機関が連携して、より現場に踏み込んだ支援を行うようなイメージに近いかもしれません。
報道によれば、議会が2024年度予算として承認した資金のうち、4月1日から始まる第3四半期分の執行が、NISTによって保留・遅延されているとのことです。議員らは、この措置が議会の意図に反するものであり、米国の製造業の根幹を支える中小企業への支援を危うくするものだと強く懸念を表明しています。
サプライチェーンへの影響と現場の懸念
MEPは、単なる技術指導にとどまらず、大手企業のサプライヤーとなる中小企業の発掘や、防衛産業を含む重要なサプライチェーンの強靭化にも貢献してきました。そのため、今回の予算停止は、各地域のMEPセンターの運営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。具体的には、専門スタッフの人員削減や、計画されていた支援サービスの停止・縮小などが現実的な懸念として挙げられています。
特に、米国が国策として製造業の国内回帰(リショアリング)やサプライチェーンの再構築を進める中、その基盤となる中小企業への支援が滞ることは、政策全体の停滞にもつながりかねません。現場で中小企業と向き合ってきた支援機関の機能が損なわれることは、長期的に見て米国の産業競争力に影響を与える可能性も指摘されています。
日本の製造業にとっての対岸の火事ではない
この米国の動きは、日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。日本のものづくりもまた、優れた技術を持つ多くの中小企業によって支えられており、その活力なくしてサプライチェーンは成り立ちません。今回の件は、そうした中小企業の重要性と、それを支える公的支援の安定性がいかに大切であるかを改めて浮き彫りにしています。
同時に、企業経営の視点からは、公的な支援制度に過度に依存することのリスクも示唆されます。政府の方針転換や行政手続きの都合によって、計画していた支援が突然打ち切られる可能性はゼロではありません。外部環境の変化に左右されず、持続的に成長するためには、やはり自社の技術力、人材、経営基盤を地道に強化していく自助努力が最も重要であるという、製造業の原理原則に立ち返るきっかけともなるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の米国の事例から、日本の製造業関係者が得るべき実務的な示唆を以下に整理します。
1. サプライチェーンにおける中小企業の役割の再評価:
自社のサプライチェーンを構成する中小企業の技術力や経営状況に対し、これまで以上に関心を払うことが重要です。米国が国策として中小企業支援に取り組んでいる背景には、彼らが国家レベルの競争力や安全保障の基盤であるという認識があります。自社の協力企業の持続可能性を支える視点を持つことは、自社の事業継続性を高めることにも直結します。
2. 公的支援策の活用とリスク管理:
国や自治体が提供する補助金や支援プログラムは、設備投資や研究開発において有効な手段です。しかし、その採択や継続性は保証されたものではありません。これらの支援を活用する際は、万が一中断された場合も想定した事業計画を立てるなど、健全なリスク管理が求められます。
3. 内部資源の強化への注力:
外部環境がいかに変化しようとも、企業の競争力の源泉は、独自の技術、熟練した人材、そして効率的な生産現場にあります。今回の米国の混乱は、外部の支援に頼るだけでなく、自社の足腰を鍛えることの重要性を再認識させてくれます。日々の改善活動や人材育成、将来を見据えた研究開発といった地道な取り組みこそが、不確実な時代を乗り越えるための最も確実な備えとなります。


コメント