「空飛ぶクルマ」として注目されるeVTOL(電動垂直離着陸機)開発の先行企業である米Joby Aviation社が、米国での生産拡大に向けた具体的な動きを見せています。これは、開発フェーズから量産フェーズへの移行を意味し、新しいモビリティのサプライチェーン構築が現実味を帯びてきたことを示唆しています。
量産に向けた具体的な投資計画
報道によれば、Joby Aviation社は、カリフォルニア州とオハイオ州の既存施設を拠点にeVTOLの製造を進める計画です。その一環として、量産に必要な資本設備の調達と、それらを稼働させるための人材採用をすでに開始したと伝えられています。これは、研究開発段階の試作ラインとは一線を画す、商業生産を見据えた本格的な製造体制の構築が始まったことを意味します。
こうした動きは、単なる企業の設備投資計画というだけでなく、eVTOLという全く新しい製品カテゴリにおける「ものづくり」のあり方が具体化していくプロセスとして注目されます。特に、航空機に求められる極めて高い安全性・信頼性と、自動車産業のような量産効率をいかに両立させるかが、生産技術上の大きな課題となります。
航空宇宙と自動車、二つの製造文化の融合
eVTOLの製造は、従来の航空機製造とも自動車製造とも異なる、特有の難しさを持つと考えられます。航空機産業は、一点ものの手作業に近い工程が多く、厳格な品質管理とトレーサビリティが求められる一方、生産量は限られます。対照的に自動車産業は、高度に自動化されたラインで桁違いの量を生産するノウハウを蓄積してきました。
Joby社が既存拠点を活用しつつ、新たな設備と人材を投入するのは、この二つの文化を融合させた新しい生産方式を模索しているからに他なりません。日本の製造業、特に航空機部品や自動車部品を手掛けるサプライヤーにとっては、自社の技術や品質管理体制がこの新しい市場でどのように活かせるのか、また、どのような変革が求められるのかを具体的に検討すべき時期に来ていると言えるでしょう。
生産体制の鍵を握る「人」の確保と育成
今回の発表で「採用(hiring)」が明記されている点は、非常に示唆に富んでいます。最先端の自動化設備を導入したとしても、それを意図通りに動かし、品質を安定させ、継続的に改善していくのは現場の技術者や技能者です。特に、これまでにない製品の量産立ち上げにおいては、予期せぬトラブルへの対応や、製造プロセスの最適化を主導できる人材の存在が成否を分けます。
航空宇宙レベルの品質保証の知識と、量産工場の生産技術、双方に精通した人材は極めて希少です。Joby社は、こうした人材の獲得と育成を、設備投資と並行して進めることで、競合に対する優位性を築こうとしていると見られます。これは、日本の製造現場においても、既存の枠組みにとらわれないスキルの再定義や、多能工化、リスキリングの重要性を改めて示すものです。
日本の製造業への示唆
今回のJoby社の動きから、日本の製造業が読み取るべき実務的な示唆を以下に整理します。
1. 新市場への具体的な参入機会の模索:
eVTOL市場は、機体構造材、モーター、バッテリー、制御システム、内装品など、日本のものづくり企業が強みを持つ領域の集合体です。新しいプレイヤーであるJobT社のような企業の生産計画が具体化する中で、自社の技術が貢献できる部分を特定し、サプライチェーンへの参入を具体的に検討する好機です。
2. 異業種技術の融合による新たな価値創造:
航空機の品質保証プロセスと、自動車の量産技術・コスト管理手法。これらを自社の中でいかに融合させ、新しい市場の要求に応えるかが問われます。これまで培ってきたコア技術を、異なる業界の視点で見つめ直し、応用する力が競争力となります。
3. 未来を見据えた人材戦略の重要性:
新しいものづくりには、新しいスキルセットを持つ人材が不可欠です。既存事業を維持しながらも、将来の成長領域を見据え、計画的な人材育成や中途採用、あるいは社内の部門横断的な人材交流などを通じて、変化に対応できる組織能力を構築しておくことが重要になります。
4. サプライヤーとしての準備:
新しいメーカーは、既存のしがらみにとらわれない、柔軟でスピーディーなサプライチェーンを構築しようとします。品質、コスト、納期(QCD)はもちろんのこと、開発段階から協力できる技術提案力や、将来の増産に迅速に対応できる生産能力の柔軟性などを磨き、来るべき商機に備える必要があります。


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