海外メーカーの求人に見る「据付管理」の重要性 ― 製造から施工までを統括する人材とは

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米国のスパ・浴槽メーカーJacuzzi社の生産管理者(Sr. Production Manager)の求人情報には、オペレーションや生産管理の経験に加え、「据付管理(Installation Management)」や「建設業界での経験」が要件として挙げられています。このことは、製造業における管理範囲が工場内から顧客への最終納品プロセスへと拡大している現状を示唆しており、日本の製造業にとっても重要な視点を提供します。

Jacuzzi社が求める「生産管理者」の姿

先日公開されたJacuzzi社のシニア・プロダクション・マネージャーの求人情報には、製造業の現場管理者が注目すべき要件が記載されていました。一般的な生産管理やオペレーション管理における5年以上の経験に加え、「据付管理(Installation Management)」および「建設業界での経験」が明確に求められています。これは、単に工場内で製品を効率よく生産する能力だけでなく、製品が顧客の元に届けられ、実際に設置・施工されるまでの全工程を管理できる人材を求めていることを意味します。

Jacuzzi社が手掛ける浴槽やスパといった製品は、工場から出荷されただけでは価値が完結しません。顧客の住宅や施設に専門の技術者が正しく据え付け、配管や電気工事を行い、正常に稼働する状態になって初めて、その価値が提供されます。つまり、最終的な品質は、製造品質と施工品質の掛け算によって決まるのです。同社が生産管理の責任者に据付や建設の知見を求める背景には、この「製造から施工まで一貫した品質と工程の管理」を極めて重視している姿勢がうかがえます。

「モノづくり」から「価値づくり」への視点

日本の製造業、特に住宅設備や産業機械、プラント設備などを手掛ける企業では、製造は自社で行い、販売や施工は代理店や地域の工事会社に委託するという分業体制が一般的です。この体制は、各々が専門性を発揮できるという利点がある一方で、いくつかの課題も内包しています。

例えば、施工現場でのトラブル情報が製造部門に迅速かつ正確にフィードバックされにくい、施工品質にばらつきが生じやすい、製品の不具合か施工の問題かの切り分けが難しく顧客対応が遅れる、といった問題です。製品設計の段階で「施工のしやすさ」が十分に考慮されていない場合、現場の負担が増大し、結果として施工品質の低下やコスト増につながることも少なくありません。

今回の求人事例は、こうした分断を乗り越え、顧客が実際に製品を使うまでの全プロセスを「一つの製品・サービス」として捉え、全体最適を図ろうとする意図の表れと見ることができます。生産管理者は、工場内のQCD(品質・コスト・納期)を追求するだけでなく、後工程である物流、販売、そして施工の現場まで視野に入れ、サプライチェーン全体のスムーズな連携を主導する役割を期待されているのです。

日本の製造業への示唆

このJacuzzi社の求人事例は、日本の製造業に携わる我々にいくつかの重要な示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。

1. 提供価値の範囲を再定義する
自社の価値提供が「工場出荷」で終わりなのか、それとも「顧客による正常な利用開始」をもって完了とするのか、改めて考える必要があります。特に施工や設置を伴う製品の場合、最終的な顧客満足は後工程の品質に大きく依存します。製造部門も、その最終価値提供まで責任を持つという意識を持つことが、製品競争力の向上につながります。

2. 生産管理者のスキルセットの拡張
これからの生産管理や工場運営を担う人材には、工場内の管理スキルに加えて、サプライチェーン全体の知識、施工や建設に関する基本的な理解、そして社外のパートナー(代理店や工事会社)と円滑に連携するコミュニケーション能力が求められるようになります。自社の人材育成計画において、こうした視点を取り入れることが重要です。

3. 部門横断・企業連携の強化
設計、製造、品質保証、営業、そして施工を担うパートナー企業まで、関係者間の情報連携を密にする仕組みづくりが不可欠です。施工現場からのフィードバックを製品設計や製造プロセスの改善に活かすサイクルを確立することが、製品力とサービス品質を同時に高める鍵となります。例えば、施工マニュアルの改善や、施工者向けの研修プログラムの提供などもメーカーが主導すべき重要な取り組みと言えるでしょう。

製造業のビジネス環境が「モノ」の所有から「コト」の体験へとシフトする中で、製品そのものの品質だけでなく、それが顧客に届けられ、使われるまでのプロセス全体の品質を高める視点がますます重要になっています。今回の海外事例は、その具体的な方向性の一つを示していると言えるでしょう。

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