権威ある市場調査レポート『Wohlers Report』の最新データによると、アディティブ・マニュファクチャリング(AM)の世界市場は着実な成長を続けています。本稿では、この市場動向を分析し、日本の製造業が実務レベルでどのように捉え、活用していくべきかについて考察します。
AM市場の堅調な成長
アディティブ・マニュファクチャリング(AM)業界で最も権威ある調査レポートの一つである「Wohlers Report」の最新の発表によると、世界のAM関連製品およびサービスの市場は、前年比9.1%増の219億ドル(約3.4兆円)規模に達しました。この成長率は、かつてのブームのような急拡大ではありませんが、技術が着実に産業界に浸透し、持続的な成長フェーズに入ったことを示唆していると言えるでしょう。
日本の製造現場から見ると、これはAM技術が単なる試作品製作用の「3Dプリンター」という段階を越え、実際の製品や治工具を製造するための「生産設備」として、その地位を確立しつつあることの表れと捉えることができます。過度な期待が先行した時期が過ぎ、実用的な技術としての冷静な評価が進んでいると考えられます。
成長を支える技術と用途の深化
市場の成長は、いくつかの要因によって支えられています。第一に、最終製品への適用拡大が挙げられます。特に航空宇宙、医療、自動車といった分野では、軽量化や高機能化を実現する複雑な形状の部品を、金型なしで製造できるAMの利点が活かされています。従来の製造方法では一体化が難しかった部品を統合し、部品点数の削減や性能向上を実現する事例も増えています。
第二に、材料とプロセスの進化です。チタン合金やニッケル基超合金といった金属材料の活用が進むと同時に、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などのスーパーエンプラに対応した装置も登場しています。また、造形速度の向上や後処理工程の自動化といった技術開発も進んでおり、生産性という観点での課題も着実に改善されつつあります。
これらの動向は、多品種少量生産やカスタマイズ製品への対応、あるいは製造中止となった保守部品のオンデマンド生産など、現代の製造業が抱える課題に対する有効な解決策となり得る可能性を秘めています。
日本国内における実情と向き合うべき課題
世界市場が拡大する一方で、日本国内におけるAMの産業利用は、欧米や中国に比べてまだ限定的であるとの見方もあります。その背景には、いくつかの実務的な課題が存在します。
まず、品質保証の問題です。AMで製造された部品は、積層プロセスに起因する内部欠陥や材料特性のばらつきを持つ可能性があり、特に高い信頼性が求められる重要保安部品などへの適用には、非破壊検査技術の確立や品質管理手法の標準化が不可欠です。多くの工場では、この品質の安定性と保証をどう担保するかが大きなハードルとなっています。
また、既存の製造プロセスとの連携や使い分けも課題です。AMは万能ではなく、切削加工や射出成形といった従来工法がコストや生産性の面で優れる領域も依然として大きいのが実情です。自社の製品ポートフォリオや生産方式の中で、どの部分にAMを適用すれば最も効果的かを見極める、冷静な技術的判断が求められます。
さらに、AMを最大限に活用するための設計思想(DfAM: Design for Additive Manufacturing)を理解した技術者の育成も急務と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の市場動向を踏まえ、日本の製造業関係者は以下の点を考慮する必要があると考えられます。
1. AMを「生産技術の一つの選択肢」として捉える
AMを特別な技術としてではなく、切削、研削、成形などと並ぶ生産技術の一つの選択肢として、その特性を正しく理解し、適材適所で活用する視点が重要です。コスト、リードタイム、実現可能な形状・機能といった複数の軸で従来工法と比較し、合理的な判断を下す必要があります。
2. 設計段階からの作り込み(DfAM)の推進
AMの価値を最大化する鍵は、設計にあります。トポロジー最適化やラティス構造といったAM特有の設計手法を取り入れることで、従来の工法では不可能だった軽量化や高機能化が実現できます。製造部門だけでなく、設計部門を巻き込んだ全社的な取り組みが不可欠です。
3. スモールスタートによる知見の蓄積
最初から最終製品の量産を目指すのではなく、まずは治工具の製作や試作品の内製化など、比較的小さな範囲からAMの活用を始めることが現実的です。これにより、現場での運用ノウハウや品質評価に関する知見をリスクを抑えながら蓄積し、段階的に適用範囲を拡大していくことができます。
4. 人材育成と外部ネットワークの活用
AMを使いこなすには、装置の操作だけでなく、材料、設計、品質管理に至るまで幅広い知識が求められます。社内での計画的な人材育成と並行して、知見を持つ外部のサービスビューロや研究機関、装置メーカーとの連携も積極的に検討すべきでしょう。自社だけで全てを抱え込まず、エコシステム全体で技術活用を進める視点が、今後の競争力を左右する可能性があります。


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