製造業においてサプライチェーン管理は事業の根幹ですが、その対象は物理的な部品だけに留まりません。本稿では、製品や工場のスマート化に伴い重要性を増す「ソフトウェア・サプライチェーン」に潜むリスクと、その管理の重要性について、実務的な視点から解説します。
ソフトウェアもまた「サプライチェーン」であるという視点
私たち製造業に携わる者にとって、部品や原材料の調達から製品が顧客に届くまでの一連の流れ、すなわちサプライチェーンの管理は、品質・コスト・納期(QCD)を維持するための生命線です。サプライヤーの選定、品質監査、受け入れ検査、在庫管理といった活動は、日々の業務に深く根付いています。
一方で、現代の製品や生産設備は、その機能の多くをソフトウェアによって実現しています。自動車の制御システム、産業機械の操作パネル、工場の生産管理システム(MES)など、その重要性は増すばかりです。そして、これらのソフトウェアは、その大半が自社でゼロから開発されているわけではありません。開発効率を上げるため、数多くのオープンソースソフトウェア(OSS)やサードパーティ製のライブラリといった「ソフトウェア部品」を組み合わせて構築されるのが一般的です。このソフトウェア部品の連なりこそが、「ソフトウェア・サプライチェーン」に他なりません。物理的な部品と同様に、ソフトウェア部品にも品質や信頼性の問題、そして脆弱性というリスクが存在します。
AI開発の加速が浮き彫りにする新たな脆弱性
近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)やAI活用の流れが加速する中で、ソフトウェア開発のスピードはかつてなく重視されています。特にAI関連の開発では、最新のアルゴリズムを実装したオープンソースのライブラリを迅速に取り込み、試行錯誤を繰り返すスタイルが主流です。
しかし、このスピード重視の開発は、ソフトウェア・サプライチェーンのリスクを増大させる側面も持っています。元記事でも触れられているように、開発者が利便性から利用した公開パッケージ(npmパッケージなど)に、悪意のあるコードが仕込まれているといったサプライチェーン攻撃の事例が後を絶ちません。利用するソフトウェア部品の一つ一つについて、その出自は確かか、既知の脆弱性は含まれていないか、ライセンス上の問題はないか、といった検証が追いつかないまま製品やシステムに組み込まれてしまう危険性が高まっているのです。これは、図面や仕様書が不確かな部品を、検証なしに製品の組み立てラインに流してしまうことに等しいと言えるでしょう。
対策の第一歩は「SBOM」による構成要素の可視化
では、この目に見えにくいソフトウェア・サプライチェーンのリスクに、どのように対処すればよいのでしょうか。その第一歩となるのが、SBOM(Software Bill of Materials)、すなわち「ソフトウェア部品表」の作成と管理です。
SBOMは、製品の部品表(BOM)のソフトウェア版と考えると理解しやすいでしょう。あるソフトウェア製品が、どのようなソフトウェア部品(コンポーネント名、バージョン、開発元など)から構成されているかを一覧にしたものです。これにより、自社の製品やシステムにどのようなソフトウェア部品が使われているかを正確に把握できます。そして、その情報を元に、特定の部品に脆弱性が発見された際に、影響範囲を迅速に特定し、対策を講じることが可能になります。欧米では、政府調達の要件にSBOMの提出を義務付ける動きも進んでおり、サプライチェーン全体でのセキュリティ確保に向けた重要な取り組みとして認識されています。
従来、こうした管理は開発者のスキルや善意に依存しがちでしたが、近年ではJFrog社が提供するような専門ツールも登場しています。これらは、開発プロセスの中で自動的にソフトウェア部品をスキャンし、SBOMを作成したり、脆弱性を検出したりする機能を提供し、管理の効率化と高度化を支援します。
日本の製造業への示唆
今回のテーマであるソフトウェア・サプライチェーン管理は、もはやIT企業だけの課題ではありません。日本の製造業が今後も競争力を維持していく上で、避けては通れない重要な経営課題です。以下に、実務上の要点と示唆を整理します。
【要点】
【実務への示唆】
物理的なサプライチェーンの強靭化と同様に、ソフトウェア・サプライチェーンの健全性を確保することが、これからのものづくりにおける品質と信頼の礎となるでしょう。

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