米国政府が、中国の不公正な貿易慣行に対し、通商法301条に基づく新たな調査に乗り出しました。造船業などを皮切りに、鉄鋼・アルミニウムの追加関税や、サプライチェーンにおける強制労働の問題も対象に含まれる可能性があり、日本の製造業にも影響が及ぶことが懸念されます。
米国、中国の不公正貿易慣行に対し新たな調査を開始
2024年4月、米国通商代表部(USTR)は、中国の造船、海事、物流分野における不公正な行為や政策に関する調査を開始したと発表しました。これは、米国の5つの主要な労働組合からの請願を受けたもので、中国政府による補助金や国内企業への優遇措置といった非市場的な政策が、公正な国際競争を歪めているという主張に基づいています。この調査により、米国の商業に不当な負担や制限が生じていると判断された場合、米国は関税引き上げなどの対抗措置を講じる可能性があります。日本の同業界においても、中国企業の価格競争力は長年の課題であり、今回の米国の動きが市場環境にどのような影響を与えるか、注意深く見守る必要があります。
鉄鋼・アルミニウム分野でも追加関税を検討
今回の調査とは別に、バイデン大統領はUSTRに対し、中国から輸入される特定の鉄鋼およびアルミニウム製品に対する既存の301条関税を、現行の3倍に引き上げることを検討するよう指示しました。この背景には、中国の過剰な生産能力が世界の鉄鋼・アルミ市場に供給過剰をもたらし、価格を不当に押し下げているという強い懸念があります。もし追加関税が発動されれば、鉄鋼・アルミを原材料として使用する米国内の製造業のコスト構造に影響が及ぶだけでなく、世界的なサプライチェーンの流れが変わる可能性も否定できません。日本の製造業においても、これらの素材を中国から調達している、あるいは中国製品と競合している企業は、コスト増や市場競争の変化に備える必要があるでしょう。
サプライチェーンにおける「強制労働」への監視強化
さらにUSTRは、中国における強制労働を利用して生産された製品の貿易についても、通商法301条に基づく調査を行うべきか、一般からの意見公募を開始しました。これは、すでに施行されているウイグル強制労働防止法(UFLPA)とは別に、より広範な人権問題を通商政策の観点から捉えようとする動きと見られます。人権デューデリジェンスは、もはや企業の社会的責任(CSR)の範疇を超え、サプライチェーン管理におけるコンプライアンス上の必須要件となりつつあります。特に米国市場と取引のある企業にとっては、自社のサプライチェーンの透明性を一層高め、原材料の調達から製品化までのトレーサビリティを確保する体制の構築が、これまで以上に強く求められることになります。
米国の国内製造業回帰とサプライチェーン再編
これら一連の動きは、単なる個別の関税措置ではなく、米国の製造業を国内に回帰させ、重要物資のサプライチェーンにおける中国への依存度を低減させるという、より大きな国家戦略の一環と捉えるべきです。地政学的なリスクが高まる中、経済安全保障の観点からサプライチェーンを再構築する動きは、今後さらに加速するものと考えられます。米国の同盟国である日本の企業にとっても、これは対岸の火事ではありません。自社の調達網や生産拠点のあり方を、中長期的な視点で見直す契機となるかもしれません。
日本の製造業への示唆
今回の米国の動きを踏まえ、日本の製造業の実務担当者および経営層は、以下の点について検討を進めることが肝要です。
1. サプライチェーンリスクの再評価と代替調達先の確保
中国からの部材・製品調達に依存している場合、追加関税による直接的なコスト増のリスクに加え、強制労働などの問題に起因する突発的な輸入停止リスクも想定しなければなりません。調達先の国・地域を分散させる「チャイナ・プラスワン」の動きを加速させるとともに、重要部材については代替調達先の具体的な検討や複数購買化(デュアルソース化)を進めることが、事業継続計画(BCP)の観点からも重要です。
2. 人権デューデリジェンス体制の強化
特に米国向けに製品を輸出している企業は、サプライヤーに対して人権侵害のリスクがないかを確認する監査の実施や、原材料の原産地証明など、トレーサビリティを確保するための仕組みを強化することが不可欠です。二次、三次のサプライヤーまで遡って状況を把握し、万が一問題が発覚した際に迅速に対応できる体制を構築しておく必要があります。
3. 通商政策の動向と市場環境の変化への注視
米国の通商政策は、鉄鋼・アルミといった素材産業だけでなく、それらを使用する自動車、電機、機械など、広範な川下産業にも影響を及ぼします。国際情勢や各国の政策動向を常に注視し、自社の事業への影響を分析し、迅速に経営判断を下せる情報収集・分析体制を整えておくことが、今後の不確実な時代を乗り切る上で極めて重要になると言えるでしょう。


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