海外のテレビ番組制作現場で、息の合ったキャスト陣が昔ながらのやり方に戻った結果、かえって制作管理上の問題が生じたという興味深い事象が報告されました。この一見些細な出来事は、日本の製造現場における熟練技能と標準化のジレンマという、根深い課題を考える上で重要な示唆を与えてくれます。
海外の制作現場で起きた事象
ある海外のテレビ番組の制作現場において、旧作のキャストが再集結した際、彼らがあまりにも早くかつての「阿吽の呼吸」を取り戻したことが、プロダクション・マネジメント(制作管理)上の課題になったと報じられています。これは、経験豊富なチームが自律的に動くことで生まれる高いパフォーマンスが、全体の管理計画と齟齬をきたす可能性を示唆する、示唆に富んだ事例と言えるでしょう。
製造現場における「阿吽の呼吸」の光と影
日本の製造現場においても、長年共に働いてきた熟練作業者のチームが、言葉を交わさずとも互いの動きを予測し、流れるように作業を進める光景は、現場の強さの象徴とされてきました。こうした暗黙知に基づいたチームワークは、高い生産性や品質安定性の源泉であることは間違いありません。
しかし、この「阿吽の呼吸」は、別の側面から見ると、いくつかの課題を内包しています。例えば、確立された標準作業手順から逸脱した、そのチーム独自の「最適化」が進むことがあります。これが常態化すると、作業の属人化を招き、特定のメンバーが不在の際に生産が滞るリスクを高めます。また、新人や他部署からの応援者への技術伝承が困難になるという問題も生じます。
さらに、生産計画の観点からは、特定のチームだけが突出して速いペースで作業を進めると、前工程からの部品供給が間に合わなくなったり、後工程で仕掛品が滞留したりするなど、ライン全体の同期(シンクロナイゼーション)を乱す原因にもなり得ます。全体の最適化を目指す工場運営において、部分最適が必ずしも好ましい結果をもたらすとは限らないのです。
現場の強みを組織の力に変えるために
では、こうした熟練チームの強みを活かしつつ、組織としての課題を克服するにはどうすればよいのでしょうか。重要なのは、彼らの持つ優れた技能やノウハウを否定するのではなく、組織全体の資産として形式知化し、活用していく視点です。
具体的なアプローチとしては、まず彼らの作業を観察・分析し、「なぜその手順なのか」「どこにコツがあるのか」をヒアリングすることが挙げられます。その中から、標準作業を改善するためのヒントを見つけ出し、手順書に反映させていくのです。これは、IE(インダストリアル・エンジニアリング)の基本的な考え方にも通じます。
また、彼らを単なる作業者としてではなく、若手への技能伝承の指導役や、現場改善活動のリーダーとして任命することも有効でしょう。彼らの経験とプライドを尊重し、組織全体のパフォーマンス向上に貢献してもらうことで、個人の能力を組織力へと昇華させることが可能になります。
日本の製造業への示唆
今回の海外事例は、日本の製造業が長年大切にしてきた「現場力」や「職人技」が、時として「属人化」や「標準化の阻害」といった負の側面を持ち合わせていることを、改めて浮き彫りにしています。私たちは、この両義性を正しく認識する必要があります。
本件から得られる実務的な示唆は、以下の3点に要約できます。
- 暗黙知の価値とリスクの認識:熟練者の持つ「阿吽の呼吸」や暗黙知は、企業の競争力の源泉であると同時に、放置すれば属人化という経営リスクになります。この両面を経営層や管理者が理解することが第一歩です。
- 現場の強みを形式知へ:優れた個人の技能やチームワークを観察・分析し、標準作業の改善や教育資料へと展開する仕組みを構築することが重要です。これにより、個人の強みを組織の強みへと転換できます。
- コミュニケーションと役割付与:なぜ標準化が必要なのか、なぜ全体の同期が重要なのかを、現場のキーパーソンに丁寧に説明し、理解を得る努力が不可欠です。彼らを改善活動の主役と位置づけることで、現場からの自発的な協力を引き出すことができます。
個の力を尊重しつつ、組織全体の最適解を追求する。このバランス感覚こそが、これからの工場運営や生産管理において、ますます重要になっていくと言えるでしょう。


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