欧州委員会、自動車バッテリー業界の価格カルテルを摘発 ― 中古品の「買取価格」操作に警鐘

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欧州委員会は、自動車用スターターバッテリーの製造業者らが中古バッテリーの買取価格を不正に操作していたとして、総額7200万ユーロ(約115億円)の罰金を科したと発表しました。この事例は、製品の販売価格だけでなく、原材料やリサイクル品の調達段階におけるカルテルも厳しく監視されていることを示しており、日本の製造業にとっても重要な教訓を含んでいます。

事件の概要:リサイクル市場での価格協定

欧州委員会が競争法(独占禁止法)違反で罰金を科したのは、Exide、FET、Rombatの自動車用バッテリーメーカー3社と、業界団体Eurobatなどです。彼らは2009年から2012年にかけて、欧州経済領域(EEA)全域で、使用済み自動車バッテリーの買取価格を協調して引き下げるカルテルを結んでいたと認定されました。この事件の興味深い点は、製品の「販売価格」の吊り上げではなく、リサイクル原料となる中古品の「買取価格」を不当に安く抑えようとした「買い手カルテル」であるという点です。

業界団体を悪用した巧妙な手口

発表によれば、各社は業界団体であるEurobatのリサイクル関連の会合を隠れ蓑にして、価格に関する機密情報を交換していました。彼らは、バッテリーのリサイクルで得られる主要な金属(特に鉛)の価格動向を共有し、それに基づいて中古バッテリーの買取価格指標を人為的に操作していたとのことです。これにより、本来であれば競争によって決まるはずの価格よりも安く中古バッテリーを調達し、原材料コストを不当に抑制していました。我々日本の製造業においても、業界団体での情報交換は技術開発や標準化のために不可欠な活動ですが、価格や生産量といった競争に関わる情報に話題が及ぶことには細心の注意が必要です。正当な協力関係と違法なカルテルの境界線は、当事者の認識以上に曖昧になりがちなのです。

内部告発とリニエンシー(課徴金減免)制度

今回のカルテルは、参加企業の一つであったClarios社(旧JC Autobatterie)が欧州委員会に内部告発したことで発覚しました。欧州の競争法には「リニエンシー制度」と呼ばれる課徴金の減免制度があり、最初に違反行為を申告し、調査に全面的に協力した企業は、罰金を全額免除されることがあります。Clarios社はこの制度の適用を受け、罰金を免れました。また、他の企業も調査への協力度合いに応じて罰金が減額されています。この制度の存在は、カルテルが一度発覚すれば内部から崩壊しやすい構造になっていることを示しており、グローバルに事業を展開する企業にとって、コンプライアンス体制の重要性を改めて浮き彫りにしています。

日本の製造業への示唆

本件は、遠い欧州での出来事と捉えるべきではありません。日本の製造業が事業を継続していく上で、以下の3つの重要な示唆を与えてくれます。

第一に、コンプライアンスの対象はサプライチェーン全体に及ぶという点です。独占禁止法が問題とするのは販売価格のカルテルだけではありません。今回の事例のように、原材料や中古品の「調達価格」を複数の企業で申し合わせることも、明確な違反行為となります。サーキュラーエコノミーへの移行が進む中、リサイクル原料の調達は今後ますます重要になります。調達部門においても、競争法遵守の意識を徹底する必要があります。

第二に、業界団体での活動におけるリスク管理の重要性です。業界団体での会合は、同業他社と情報交換を行う貴重な機会ですが、同時に価格協定の温床となるリスクもはらんでいます。どのような情報が競争法上問題となりうるのかを従業員に周知徹底させるとともに、会議の議題や議事録を適切に管理し、透明性を確保する仕組みが不可欠です。

最後に、グローバルな競争法への対応です。欧州だけでなく、米国やアジア諸国でも競争法の執行は年々厳格化しています。海外に拠点を持つ企業は、現地の法規制を正確に理解し、本社主導でグローバルなコンプライアンス体制を構築・運用することが、経営の安定に直結します。万が一、自社が違反行為に関与してしまった場合に備え、リニエンシー制度のような各国の制度を理解し、有事の際の対応方針を事前に検討しておくことも、現代の企業経営における重要なリスクマネジメントと言えるでしょう。

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