欧州委員会は、フランス政府による11億ユーロ(約1800億円)規模のクリーンテック分野への投資支援策を承認しました。これは、欧州のグリーン移行を加速させると同時に、域内での製造業の競争力強化を目指す明確な産業政策であり、日本の関連企業にとっても重要な意味を持ちます。
概要:フランスが11億ユーロ規模のクリーンテック投資支援を開始
2024年4月、欧州委員会は、フランス政府が計画する11億ユーロの国家支援策を承認したと発表しました。この制度は、バッテリー、ソーラーパネル、風力タービン、ヒートポンプ、電解槽、炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術といった、いわゆるクリーンテック製品の製造に関わる戦略的な投資を支援するものです。また、これらの製品に必要な重要部品や原材料の生産も支援対象に含まれています。
支援の形式は、企業への直接補助金であり、フランス国内の特定地域への投資が条件とされています。これは、EUが目指すグリーン移行と、域内でのサプライチェーン強靭化という二つの大きな目標を達成するための具体的な一手と見ることができます。
背景にあるEUの産業政策「グリーンディール産業計画」
今回のフランスの動きは、単独の政策ではなく、EU全体の大きな枠組みである「グリーンディール産業計画(Green Deal Industrial Plan)」の一環として位置づけられています。EUは、米国のインフレ削減法(IRA)など、他国の大規模な産業支援策に対抗し、欧州域内でのクリーンテック産業の競争力を維持・強化する必要に迫られています。
そのための時限的な措置として設けられたのが「一時的な危機および移行枠組み(Temporary Crisis and Transition Framework)」であり、今回のフランスの支援策もこの枠組みの下で承認されました。これは、環境目標の達成が、今や各国の産業政策や経済安全保障と不可分であることを示しています。単なる環境規制の強化ではなく、補助金という直接的な手段を用いて域内産業を育成・保護する強い意志の表れと言えるでしょう。
具体的な支援対象分野と日本の関連産業への影響
支援対象となる分野は、日本の製造業が強みを持つ、あるいはグローバル市場で激しい競争を繰り広げている分野と大きく重なります。
- バッテリー:車載用電池や蓄電池システム
- ソーラーパネル:太陽光発電モジュールおよび関連部材
- 風力タービン:洋上・陸上風力発電機の主要コンポーネント
- ヒートポンプ:省エネルギー型の空調・給湯機器
- 電解槽:グリーン水素製造の基幹装置
- CCUS関連技術:CO2の分離・回収・貯留に関わる設備
フランス国内でこれらの製品を製造する企業は、大規模な補助金によって設備投資の負担が軽減され、コスト競争力が高まることが予想されます。これは、日本から欧州へ製品を輸出している企業にとっては、価格競争が一層厳しくなることを意味します。一方で、既に欧州に生産拠点を持つ、あるいはこれから進出を検討する企業にとっては、新たな事業機会となる可能性も秘めています。
日本の製造業への示唆
今回のフランスの事例は、世界の主要経済圏が自国・地域内の製造業をいかに重要視しているかを示す象徴的な出来事です。日本の製造業に携わる我々は、この動きから以下の点を読み取り、自社の戦略に活かしていく必要があります。
1. グローバルな政策動向の常時監視
EUのグリーンディールや米国のIRAのように、各国の産業政策は、今やグローバルなサプライチェーンと市場の競争条件を直接的に左右します。環境、経済安全保障、産業振興が一体となった政策動向を、これまで以上に注視し、自社への影響を迅速に分析する体制が不可欠です。
2. 競争環境の再評価と戦略の見直し
国家的な支援を受けた海外企業との競争は、従来の延長線上では考えられません。自社の製品や技術の優位性だけでなく、コスト構造、生産拠点の配置といった事業の根幹を、新たな競争環境を前提に再評価する必要があります。特に、欧州市場を重要視する企業にとっては、現地生産のメリット・デメリットを改めて検討する時期に来ていると言えるでしょう。
3. サプライチェーンの最適化
EU域内での生産が優遇される流れは、今後も続くと考えられます。地政学リスクの高まりも踏まえ、特定の地域に依存しない、より強靭で柔軟なサプライチェーンの構築は、もはや待ったなしの経営課題です。欧州での現地調達率の向上や、現地企業とのパートナーシップ構築も有効な選択肢となります。
今回の動きは、欧州市場における競争のルールが変わりつつあることを示唆しています。これを脅威と捉えるだけでなく、変化に対応し、新たな機会を見出すための戦略的な思考が、日本の製造業には求められています。


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