世界有数の経済分析機関であるOxford Economicsは、世界の製造業が緩やかな回復基調にあると分析しています。本稿では、同社のレポートから読み取れるマクロな動向を、我々日本の製造業が実務に活かすための視点で解説します。
世界の製造業の現在地:緩やかな回復と根強い不確実性
Oxford Economicsの分析によれば、世界の製造業は2023年後半に底を打ち、緩やかな回復の途上にあります。特に、在庫調整が進んだ半導体・エレクトロニクス分野がこの回復を牽引している模様です。しかし、その足取りは決して力強いものではなく、多くの国で高水準にある政策金利や、根強いインフレ圧力が設備投資や消費需要の重しとなっています。
日本の製造現場から見ても、顧客のいる国や地域によって受注の温度差が大きいと感じられているのではないでしょうか。北米市場は比較的堅調な一方、欧州では景気減速の影響が見られ、中国経済の先行き不透明感も無視できません。こうしたマクロ経済の動向が、我々の生産計画や販売戦略に直接的な影響を及ぼしていると言えるでしょう。
セクター別の動向とサプライチェーンの再評価
分野別に見ると、回復の様相は一様ではありません。前述のエレクトロニクス分野が先行する一方、自動車産業は電気自動車(EV)への移行ペースの調整や、地域ごとの需要のばらつきに直面しています。また、企業の設備投資意欲を反映する資本財セクターは、金利動向や景気の先行きに敏感に反応するため、依然として不安定な状況が続いています。
こうした需要の変動に加え、地政学リスクは引き続きサプライチェーンにおける重要な検討事項です。コロナ禍で顕在化した供給網の脆弱性への対策として始まった調達先の多様化や生産拠点の見直し(リショアリングやニアショアリング)は、今や恒久的な経営課題となりました。最近では紅海情勢の緊迫化が輸送リードタイムやコストに影響を与えるなど、予期せぬリスクは常に存在します。自社のサプライチェーンのどこに脆弱性があるのかを定期的に評価し、代替策を講じておくことの重要性は増すばかりです。
中長期的な構造変化の波:脱炭素とデジタル化
短期的な景気循環とは別に、製造業は二つの大きな構造変化に直面しています。一つは「脱炭素化(グリーン移行)」、もう一つは「デジタル化」です。
脱炭素化は、もはや単なる環境対応コストではありません。省エネルギー設備への投資や再生可能エネルギーの活用は、エネルギーコストの削減に直結します。また、顧客からはサプライチェーン全体でのCO2排出量(Scope3)の開示を求められるケースも増えており、取引継続の条件となりつつあります。この潮流を、自社の生産プロセスを見直し、新たな付加価値を創出する機会と捉える視点が求められます。
デジタル化の進展、特に自動化やAIの活用は、日本の製造業が抱える労働力不足という深刻な課題への有効な処方箋となり得ます。熟練技術者の技能伝承、検査工程の自動化、生産計画の最適化など、その応用範囲は広範です。多品種少量生産が主流となる中、データを活用して生産性を向上させる取り組みは、企業の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。
日本の製造業への示唆
Oxford Economicsが示すマクロな分析から、我々日本の製造業は以下の点を実務上の示唆として読み取ることができます。
1. 需要の多様性を前提とした生産・販売計画:
世界経済の回復ペースには地域差・分野差があることを認識し、特定の市場や製品に依存しすぎないポートフォリオを意識することが重要です。販売部門と製造部門が密に連携し、需要動向をきめ細かく捉え、機敏に生産計画へ反映させる体制が求められます。
2. サプライチェーンの継続的な強靭化:
地政学リスクは常態化したと捉え、調達・生産・物流におけるリスクシナリオを複数想定しておく必要があります。単にコストだけでなく、供給の安定性やリードタイムといった要素を総合的に評価し、サプライヤーとの関係を再構築していくことが不可欠です。
3. 構造変化への戦略的投資:
脱炭素とデジタル化は、避けて通れない大きな潮流です。これらを短期的なコストとして捉えるのではなく、中長期的な競争力強化につながる戦略的投資と位置づけるべきでしょう。自社の強みを活かせる領域を見極め、計画的に投資を進めることが、将来の成長の礎となります。
世界経済の大きなうねりを理解し、自社の現場で起こっている事象と結びつけながら、着実に次の一手を打っていく。そうした冷静かつ戦略的な姿勢が、今の日本の製造業には求められているのではないでしょうか。


コメント