米物流専門家が語る「米州における製造業回帰」の潮流とその背景

global

米国の物流専門メディアFreightWavesのCEOが、「製造業は米州(The Americas)に戻ってきている」との見解を示しました。この動きは、グローバルサプライチェーンのあり方が大きな転換点を迎えていることを示唆しており、日本の製造業にとっても無視できない重要な潮流です。

米国の物流視点から見た製造業の立地変化

米国のトラック輸送をはじめとする物流業界の動向を専門に扱うメディア「FreightWaves」の創業者兼CEOであるクレイグ・フラー氏は、近年のトラック輸送業界のトレンドが経済に与える影響を分析する中で、「製造業のルネサンス(復興)」が米州で起きていると指摘しました。これは、これまでコスト最適化を求めてアジアなどに展開されてきた生産拠点が、再び北米・中南米地域へと回帰、あるいは新たに設置される動きが活発化していることを指しています。物流の最前線にいる専門家が、モノの動きの変化から製造業の大きな地殻変動を捉えている点は、非常に示唆に富んでいます。

なぜ今、製造業の「回帰」が起きているのか

この「製造業回帰」の背景には、いくつかの複合的な要因があります。第一に、近年の地政学リスクの高まりです。米中間の対立や不安定な国際情勢を受け、企業はサプライチェーンの安定性確保を最優先課題と捉えるようになりました。特定の国や地域に生産を過度に依存することのリスクが、改めて浮き彫りになったのです。

第二に、パンデミックの教訓です。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、グローバルに張り巡らされたサプライチェーンの脆弱性を露呈させました。部品一つが届かないだけで生産ライン全体が停止する事態を経験し、多くの企業が供給網の見直しを迫られました。物理的な距離が近い場所での生産(ニアショアリング)や、自国での生産(リショアリング)は、こうした不確実性への有効な対策と見なされています。

さらに、輸送コストの変動やリードタイムの長さも無視できません。特に海上輸送の運賃は近年、激しい変動を繰り返しており、事業計画の安定性を損なう要因となっています。米州、特にメキシコなどを活用した生産体制は、主要市場である北米への輸送リードタイムを劇的に短縮し、在庫管理の効率化や市場変化への迅速な対応を可能にします。米国政府による国内製造業への投資を促す政策(IRA法やCHIPS法など)も、この動きを力強く後押ししています。

日本の製造業から見たこの潮流の意味

この動きは、決して対岸の火事ではありません。我々、日本の製造業も同様の課題に直面しています。特に北米を重要な市場と位置づける自動車産業や電子部品、機械産業などでは、すでにメキシコへの生産移管や投資拡大といった形で、サプライチェーンの再構築が進行しています。

これは、生産拠点の最適化における判断基準が、従来の「コスト」一辺倒から、「リスク」「安定供給」「リードタイム」といった多角的な要素を重視する方向へと大きくシフトしていることを物語っています。単に安い場所で作るのではなく、顧客に確実に製品を届け、事業を継続させるための「サプライチェーン強靭化(レジリエンス)」という視点が、経営の根幹をなすようになっているのです。

日本の製造業への示唆

今回の米国の専門家による指摘は、日本の製造業が今後の事業戦略を考える上で、以下の点を再確認するきっかけとなります。

1. サプライチェーンの脆弱性評価:
自社のサプライチェーンについて、地政学リスクや自然災害、輸送の寸断といった観点から、脆弱性を再評価することが急務です。特定の国やサプライヤーへの依存度が高すぎないか、具体的なリスクシナリオを想定した検討が求められます。

2. 生産拠点のポートフォリオ最適化:
「どこで作るか」という問いに対し、コストだけでなく、供給安定性、リードタイム、市場へのアクセス、為替リスクなどを総合的に勘案した、生産拠点のポートフォリオ戦略を再構築する必要があります。北米市場向けにはメキシコ、欧州市場向けには東欧といった「地産地消」に近い考え方が、改めて重要性を増しています。

3. 国内生産の価値の再定義:
グローバルな供給網のリスクが顕在化する中で、国内生産の価値を見直すことも重要です。特に、高度な技術やノウハウが求められるマザー工場としての機能、あるいは短納期・多品種少量生産への対応拠点として、国内工場の役割を再定義し、その競争力を高めていく視点が不可欠です。

製造業のグローバルな立地競争は、新たな局面に入りました。コスト競争力だけでなく、変化に対応し、供給責任を果たし続ける「しなやかさ」こそが、これからの製造業の持続的な成長を支える鍵となるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました