カナダと欧州の航空機メーカーによる製造協力の協議が、米国の警戒感を招いています。この動きは、単なる防衛装備品の取引に留まらず、国際的なサプライチェーンの再編と、地政学が製造業に与える影響の大きさを示唆するものです。本稿では、このニュースの背景を解説し、日本の製造業が読み解くべき要点を考察します。
背景:カナダの次期戦闘機選定と欧州からの提案
カナダは現在、老朽化したCF-18戦闘機の後継機選定を進めています。この中で、スウェーデンの航空宇宙・防衛大手であるサーブ社が、同社の戦闘機「グリペン」のカナダ国内での生産を伴う、大規模な産業協力パッケージを提案したことが注目されています。これは単に完成機を輸入するのではなく、カナダ国内に生産ラインを設け、関連技術を移転し、現地の雇用を創出するというものです。購入国にとって、産業基盤の強化や技術力の向上に繋がる極めて魅力的な提案と言えるでしょう。
米国が抱く懸念の構造
伝統的にカナダは、米国製の防衛装備品を導入してきました。今回の後継機選定でも、ロッキード・マーティン社のF-35が有力候補の一つとされています。ここに欧州企業が「現地生産」というカードを切って参入してきたことで、米国は複数の側面から懸念を抱いています。一つは、単純に巨大な商機を失うという経済的な側面。もう一つは、より深刻な安全保障上の側面です。カナダと米国は、NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)を通じて緊密な防衛協力関係にあります。ここに欧州製のシステムが深く組み込まれることによる、相互運用性や機密情報管理への影響が懸念されているのです。これは、長年にわたって構築されてきた北米の防衛産業サプライチェーンに、欧州が楔を打ち込む形になるとも捉えられています。
「現地化」が競争力の源泉となる時代
今回のサーブ社の提案は、現代のグローバルな製造業における重要な潮流を象徴しています。それは、単に優れた製品(モノ)を供給するだけでなく、技術移転や現地生産、人材育成といった包括的な価値(コト)を提供することで、競争優位性を確立する戦略です。特に、国家的なプロジェクトや大規模なインフラ整備においては、発注国の経済や産業振興にどう貢献できるかという視点が、受注を左右する決定的な要因となり得ます。これは、航空機のような特殊な産業に限った話ではありません。我々日本の製造業が海外市場で事業を展開する上でも、製品の品質やコストだけでなく、進出先の国や地域社会にどのような付加価値をもたらせるかを考えることが、ますます重要になっています。
日本の製造業への示唆
この一件から、我々日本の製造業関係者が得るべき示唆は、大きく3点あると考えられます。
1. サプライチェーンにおける地政学リスクの直視
米中対立や経済安全保障の概念が広まる中、国際情勢はサプライチェーンに直接的な影響を与えます。今回の事例は、長年の同盟国間であっても、産業政策や経済合理性を巡ってサプライチェーンの再編が起こり得ることを示しています。自社のサプライチェーンが、特定の国や地域に過度に依存していないか、地政学的な変動要因を考慮したリスク評価と代替策の検討が不可欠です。
2. 「モノ売り」から「ソリューション提供」への転換
高品質な製品を作るだけでは、グローバル競争を勝ち抜くことは困難になりつつあります。サーブ社の例のように、顧客国の産業政策やニーズを深く理解し、現地生産や共同開発、技術協力といった「ソリューション」として事業を提案する視点が求められます。これは、単なるコスト削減のための海外生産とは一線を画す、戦略的なグローバル展開と言えるでしょう。
3. 国際連携と標準化への意識
航空機産業のように高度な技術と巨額の投資を要する分野では、国際的な共同開発や生産が主流です。異なる国の企業が協業する上では、技術標準や品質管理、情報共有のあり方が極めて重要になります。自社の技術や生産プロセスが、グローバルな連携の枠組みの中で通用するものか、常に問い続ける姿勢が重要です。今回の米国の懸念の背景には、こうした標準化や相互運用性の問題も横たわっています。


コメント