米オハイオ州、中小製造業支援プログラムの予算を停止 – 公的支援への依存リスクを問う

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米国オハイオ州において、中小製造業を支援してきた公的プログラムへの州予算が全額削減されるという決定が下されました。この出来事は、製造業の競争力維持における公的支援の役割と、それに依存することの危うさを我々に示唆しています。

米国オハイオ州で起きたこと:製造業支援予算の停止

米国の製造業情報サイト「advancedmanufacturing.org」によると、オハイオ州の2024-2025年度予算案において、州内の中小製造業を支援する非営利プログラム「Ohio MEP (Manufacturing Extension Partnership)」への資金提供が完全に打ち切られました。Ohio MEPは、州内に6つの拠点を持ち、長年にわたり中小企業の生産性向上や売上拡大を支援してきた重要な組織です。今回の決定は、現地の製造業関係者に大きな衝撃を与えています。

MEP(製造業拡張パートナーシップ)とは何か

そもそもMEPとは、米国商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)が主導する、全米規模の公的な中小製造業支援ネットワークです。連邦政府、州政府、そして民間の資金を組み合わせて運営されており、いわば日本の公設試験研究機関(公設試)や、よろず支援拠点のような役割を担っています。その目的は、最新技術の導入支援、リーン生産方式の展開、品質管理体制の構築、サプライチェーンの最適化、人材育成といった、製造現場が直面する様々な課題解決を後押しすることにあります。

特に、大企業に比べて経営資源が限られる中小企業にとって、MEPは安価で質の高い専門的なコンサルティングやトレーニングを受けられる貴重な機会を提供してきました。現場の改善活動から経営戦略に至るまで、幅広い支援を行うことで、地域経済と国内の製造業基盤を支える重要な存在と位置づけられています。

予算停止が示唆するもの

今回のオハイオ州の決定は、単なる一地域の予算削減問題として片付けることはできません。背景には、厳しい財政状況や、政策の優先順位の変化があったものと推察されます。公的支援事業に対しては、常にその費用対効果が問われます。投じられた税金に対して、どれだけの成果(雇用の創出、税収の増加など)があったのかを明確に示せなければ、事業の継続は難しくなります。これは、日米を問わず、行政運営における共通の課題と言えるでしょう。

この出来事は、公的支援というものが永続的ではないという厳しい現実を突きつけています。これまで支援に頼ってきた中小企業は、今後、自力での課題解決を迫られることになります。短期的に見れば、技術革新や人材育成のペースが鈍化し、州全体の製造業の競争力低下につながるのではないかという懸念も指摘されています。

日本の製造業への示唆

この米オハイオ州での一件は、日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。我々が学ぶべき実務的な示唆を以下に整理します。

1. 公的支援の不確実性を認識する
国や地方自治体が提供する補助金や助成金、専門家派遣などの支援制度は、非常に有用です。しかし、それらは経済情勢や政策の転換によって、いつ規模が縮小されたり、終了したりするかわからないという不確実性を内包しています。支援制度を経営計画の前提に置くのではなく、あくまで自社の取り組みを加速させるための一時的な「追い風」として捉えるべきです。支援ありきの事業計画は、その土台が崩れた際に経営を揺るがしかねません。

2. 外部環境に左右されない「現場力」の再構築
最終的に企業の競争力を支えるのは、自社の持つ技術力、開発力、そして改善を継続する「現場力」です。外部のコンサルタントや支援機関に頼るだけでなく、自社の従業員が主体となって課題を発見し、解決策を考え、実行していく文化と仕組みを構築することが不可欠です。日々のカイゼン活動や人材育成への地道な投資こそが、外部環境の変化に耐えうる強靭な企業体質を作り上げます。

3. 支援活用の目的を明確にする
公的支援を活用する際には、その目的を明確にすることが肝要です。「補助金がもらえるから新しい設備を導入する」のではなく、「自社の生産性を30%向上させるという目標達成のために、この支援制度を活用する」というように、あくまで自社の戦略が主軸にあるべきです。支援をきっかけとして、自社にノウハウを蓄積し、将来的には支援がなくとも自走できる状態を目指す、という視点が求められます。

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