タイの電力会社が増益見通しを発表した背景には、水供給の安定化があります。この事例は、気候変動が電力など基幹インフラに与える影響と、製造業における事業継続計画(BCP)の重要性を改めて示唆しています。
気候変動がもたらす電力インフラへの影響
タイの電力会社であるCKPower社が、水供給の改善により、特に降雨量の少ない乾季における電力生産管理が安定し、収益が大幅に向上する見通しであると報じられました。これは主に水力発電に関する動向と考えられますが、製造業の我々にとっても重要な示唆を含んでいます。
このニュースが示すのは、気候変動による降雨パターンの変化や異常気象が、電力という社会の基幹インフラの安定性を直接的に揺るがすリスクであるという事実です。水力発電は再生可能エネルギーの有力な選択肢ですが、その一方で水源の状況、すなわち降水量や貯水量といった自然条件に大きく左右されるという側面も持ち合わせています。今回の事例は、その脆弱性をインフラ管理によって克服しようとする取り組みと捉えることができます。
製造拠点におけるインフラリスクの再評価
この動向は、日本の製造業、特にタイをはじめとする東南アジアに生産拠点を持つ企業にとって、決して対岸の火事ではありません。電力供給の不安定化は、生産計画の遅延、製造設備の稼働停止、ひいては製品品質の低下に直結する、経営上の重大なリスクです。また、電力だけでなく、生産に不可欠な工業用水が渇水によって取水制限を受けるといった事態も十分に想定されます。
海外拠点、あるいは国内の工場においても、自社のBCP(事業継続計画)を再点検する良い機会と言えるでしょう。地震や火災といった従来の災害シナリオに加え、猛暑による電力需給の逼迫、渇水による操業への影響といった、気候変動に起因するインフラ途絶のリスクを具体的に想定し、自家発電設備の能力や燃料備蓄、代替水源の確保といった対策が十分であるかを確認することが求められます。
サプライチェーン全体で捉える必要性
さらに重要なのは、リスクを自社工場単体でなく、サプライチェーン全体で捉える視点です。仮に自社の備えが万全であったとしても、部品や原材料を供給するサプライヤーが同じようなインフラリスクに晒され、生産停止に陥れば、自社の操業も滞ってしまいます。
サプライチェーンの強靭化という観点から、主要な一次サプライヤー、さらにはその先の二次サプライヤーが立地する地域の電力・水・物流インフラの脆弱性を評価し、リスク情報を共有することが不可欠です。これは、単なるコストや品質、納期といった従来のサプライヤー評価基準に、「事業継続性」という新たな軸を加えることに他なりません。状況に応じては、調達先の複線化や戦略的な在庫配置の見直しも、改めて検討する必要があるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の海外事例から、日本の製造業が実務に活かすべき要点と示唆を以下に整理します。
1. インフラリスクの具体化と評価
気候変動は抽象的な環境問題ではなく、「渇水による電力不足」や「豪雨による物流寸断」といった、生産活動に直結する具体的な事業リスクとして認識する必要があります。自社の事業が依存するインフラ(電力、水、ガス、物流、通信)を棚卸しし、国内外の拠点ごとにリスクの大きさや発生確率を評価することが、対策の第一歩となります。
2. BCP(事業継続計画)の高度化
策定済みのBCPに、気候変動を起因とするインフラ途絶のシナリオを具体的に組み込み、その実効性を検証することが求められます。特に海外拠点においては、現地のインフラ事情を正確に把握し、より現実的な対応策(例えば、停電が数日間に及ぶ可能性など)を盛り込むべきです。
3. サプライチェーン全体のレジリエンス向上
自社拠点だけでなく、サプライヤーが抱えるインフラリスクも評価対象に含める視点が不可欠です。主要サプライヤーとの定期的な対話を通じてリスク認識を共有し、サプライチェーン全体でレジリエンス(回復力・しなやかさ)を高めていく協調的な取り組みが、今後の安定生産の鍵を握ると考えられます。


コメント