米国の金融IT業界で「Production Management」という職種の求人が見られます。この言葉は、製造業で使われる「生産管理」とは意味合いが異なります。本記事では、この言葉を紐解きながら、製造業の現場運営やDX推進における示唆を探ります。
IT分野における「Production Management」の定義
先日、米国の金融業界向け求人サイトで「Technology Support II – Production Management, Issues Management」という募集が掲載されていました。直訳すると「技術サポートII – 生産管理、問題管理」となりますが、これは製造業のそれとは指し示す領域が異なります。
IT業界、特にシステム開発や運用の世界で「Production」とは、ユーザーが実際に利用する「本番環境」のシステムを指します。開発段階の「開発環境」や、テストを行う「検証環境」とは区別されるものです。したがって、「Production Management」とは、この本番システムの安定稼働を維持するための管理業務全般を意味します。具体的には、システムの監視、障害発生時の対応(インシデント管理)、根本原因の究明と再発防止(問題管理)、プログラムの更新作業(リリース管理)、将来の負荷を見越した増強計画(キャパシティ管理)などが含まれます。
この職務は、事業の根幹をなすITサービスを止めないための、いわば「守りの要」であり、高い専門性と責任が求められる役割と言えるでしょう。
製造業の「生産管理」との違いと共通点
日本の製造業における「生産管理」は、主にQCD(品質・コスト・納期)を最適化するため、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を効率的に計画・統制する活動を指します。対象は物理的な製品の生産プロセスです。
一方で、IT業界の「Production Management」は、情報システムという無形のサービスが対象です。両者の違いを整理すると、管理対象が「物理的なモノの流れ」か「情報システムの状態」かという点に集約されます。
しかし、その根底に流れる思想には多くの共通点が見られます。どちらも「計画通りに、安定して、品質を維持しながら稼働させる」ことを至上命題としています。工場が予期せぬ停止をすれば多大な損失が出るように、ECサイトや金融システムが停止することもまた、事業に深刻な影響を与えます。また、求人情報に併記されている「Issues Management(問題管理)」は、まさに製造業の品質管理における問題解決プロセスと酷似しています。障害発生時に迅速な復旧を目指す「応急処置」と、根本原因を特定し恒久対策を講じる「再発防止」という考え方は、QC活動などでも馴染み深いものでしょう。製造現場の4M(人・機械・材料・方法)変更管理と同様に、ITシステムの世界でも構成変更には厳格なプロセスが求められます。
スマートファクトリー化が進む現場との関連性
近年、製造業ではスマートファクトリー化が急速に進展しています。MES(製造実行システム)やSCADA、IoTセンサーなどが複雑に連携し、生産活動そのものが高度なITシステムの上に成り立つようになりました。これは、工場の安定稼働が、物理的な設備だけでなく、それを制御・監視するITシステムの安定性に大きく依存するようになったことを意味します。
こうした状況において、これまで述べてきたIT業界の「Production Management」の知見は、製造業にとっても他人事ではありません。工場のIT基盤で発生した障害にどう対処し、いかに再発を防ぐか。そのための体系的な管理手法(例えば、ITILのようなフレームワーク)は、今後の工場運営において重要な要素となり得ます。
日本の製造業への示唆
今回の求人情報から、日本の製造業に携わる我々が得られる示唆を以下に整理します。
1. 異業種との対話における「共通言語」の重要性
DXを推進する上で、IT部門や外部のITベンダーと協力する機会は増え続けています。「生産管理」という同じ言葉でも、業界が異なれば指すものが全く違うという事実は、円滑なコミュニケーションの難しさを示唆しています。プロジェクトの初期段階で、言葉の定義を丁寧にすり合わせるひと手間が、後の手戻りや誤解を防ぐ上で極めて重要です。
2. ITサービスマネジメント手法の応用可能性
システムの安定稼働を目的とするITサービスマネジメントの考え方は、スマート化された工場の運営管理にも応用が可能です。特に、障害発生時の対応フローを定める「インシデント管理」や、根本原因を追究する「問題管理」のプロセスは、生産設備の突発的な不具合や品質問題への対応力を高める上で参考になるでしょう。自社の情報システム部門が持つ知見を、生産現場の改善に活かす視点も有効です。
3. 異業種のベストプラクティスから学ぶ姿勢
金融業界のように、システムの停止が社会的な信頼の失墜に直結するミッションクリティカルな分野では、システム運用の管理手法が高度に洗練されています。製造業も、自社の生産システムの重要性が増す中で、こうした異業種のベストプラクティスに学び、自社の管理レベルを客観的に見直すことが、将来の競争力を維持する上で欠かせない取り組みと言えるでしょう。


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