生産管理の原理原則は、業種を問わず共通する部分が多くあります。一見すると関連の薄い「畜産業」における生産管理の研究動向を紐解きながら、我々日本の製造業が日々の改善活動や工場運営に活かせる普遍的な視点を探ります。
生産管理の本質と分野横断的なアプローチ
生産管理とは、定められた品質(Q)、コスト(C)、納期(D)を達成するために、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を最適に配分し、生産活動を効率的に運営するための管理活動全般を指します。この目的は、自動車産業であれ、食品加工業であれ、あるいは電子部品産業であれ、本質的に変わるものではありません。しかし、日々の業務に追われる中で、我々の思考は自社の製品や工程、業界の常識に縛られがちです。
こうした状況において、普段接することのない異分野の事例に目を向けることは、固定観念を打破し、新たな改善のヒントを得るための有効な手段となり得ます。今回ご紹介するのは、畜産業における生産管理に関する学術研究の動向分析ですが、ここから製造業にも通じる重要な示唆を読み取ることができます。
畜産業における「生産管理」とは
元となった記事は、2020年から2024年にかけて発表された畜産分野の生産管理と開発に関する学術論文の内容を分析したものです。具体的な内容は限定的ですが、この分野における「生産管理」とは、飼料の最適配合によるコスト管理、個体ごとの健康・発育データの収集と分析、繁殖計画の最適化、疾病の予防的管理、そして最終製品である食肉や乳製品のトレーサビリティ確保などが中心的なテーマになると考えられます。
これらのテーマを我々製造業の言葉に置き換えてみると、その類似性に気づかされます。
- 飼料の最適配合 → 原材料の最適投入、歩留まり改善
- 個体ごとのデータ管理 → 製品ごとの製造・検査履歴管理(個品管理)
- 繁殖計画の最適化 → 生産計画、需要予測、能力平準化
- 疾病の予防的管理 → 設備の予防保全(PM)、品質不良の未然防止(FMEA)
- トレーサビリティ確保 → サプライチェーン全体の品質保証体制
対象が「工業製品」か「生物」かという違いはありますが、ばらつきを持つ対象をいかに効率よく、安定した品質で管理し、最終的な価値を最大化するかという点において、その根底にある思想は全く同じであると言えるでしょう。
「ばらつき」の管理とデータ活用の視点
特に注目すべきは、「生物」という工業製品以上にばらつきの大きい対象を管理する点です。畜産業では、個体差を前提とした上で、データに基づき一頭一頭の状態をきめ細かく把握し、最適な処置を施すアプローチが不可欠です。これは、近年の製造業で重要性が増している「マスカスタマイゼーション」や「変種変量生産」における個品管理の考え方と通じます。
IoT技術の進展により、製造現場でも個々の製品や仕掛品にIDを付与し、その加工履歴や検査データをリアルタイムに追跡することが可能になりました。畜産業が個体の健康状態や成長記録を重視するように、我々も製品一つひとつの「健全性」を示すデータを収集・活用することで、より高度な品質保証や工程改善が実現できるかもしれません。ばらつきを単なる問題として捉えるのではなく、管理し、活用する対象と捉える視点は、今後の工場運営において重要な意味を持つでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の異分野の事例から、日本の製造業に携わる我々が得られる示唆を以下に整理します。
1. 生産管理の「目的」への回帰
日々の管理手法が、本来の目的を見失い、形骸化していないかを見直す良い機会となります。「なぜこのデータを取るのか」「この管理指標は何のためにあるのか」といった本質的な問いに立ち返ることで、より実効性のある管理体制を再構築するきっかけになります。
2. 管理指標とデータ活用の再検討
畜産業が個体ごとのデータを重視するように、自社の製品や工程において、本当に価値のあるデータは何かを再検討することが重要です。漠然としたロット管理から、より解像度の高い個品レベルでのデータ活用へとシフトすることで、これまで見えなかった課題や改善の糸口が見つかる可能性があります。
3. 業界の垣根を越えた学びの重要性
自社の業界の常識や成功体験だけにとらわれず、積極的に他分野の事例にアンテナを張る姿勢が、不確実性の高い時代を乗り越えるための鍵となります。学会や展示会、異業種交流の場などを活用し、自社の課題を解決するヒントをあらゆる場所から探求することが、持続的な競争力の源泉となるでしょう。


コメント