異常気象による事業への影響が懸念される中、企業の防災体制やBCP(事業継続計画)の実効性が問われています。オーストリアで報じられた、ある製造企業の生産管理責任者の事例から、地域社会との連携がもたらす組織のレジリエンス向上と人材育成の可能性について考察します。
豪雪対応の最前線にいた生産管理責任者
先日、オーストリアの地方ニュースが、記録的な大雪に見舞われた地域の状況を報じました。その中で、ボランティア消防団の一員として12時間で40件もの出動に対応した人物として、地元の製造企業Fundermax社で生産管理責任者を務めるマーカス・ヘーガー氏が紹介されています。これは単なる一個人の美談として捉えるべきではなく、企業の危機管理と地域社会との関わりを考える上で、示唆に富む事例と言えます。
生産管理の知見は、そのまま危機管理のスキルとなる
なぜ、生産管理の責任者が災害対応の現場で活躍できたのでしょうか。それは、両者に求められるスキルセットに多くの共通点があるからに他なりません。生産現場では、設備の突発的な故障、品質問題の発生、急な仕様変更など、常に予期せぬ事態への対応が求められます。限られた時間とリソース(人、モノ、カネ)の中で、最善の解決策を導き出すための状況判断力、問題のボトルネックを特定する分析力、そして関係各所と連携して実行する調整力は、まさに災害対応の縮図と言えるでしょう。
ヘーガー氏が日常業務で培ってきたこれらの能力は、混乱した災害現場において、冷静な判断と効率的な活動を可能にしたと推察されます。日本の製造現場においても日々行われている、こうした平時の「小さな危機管理」の経験が、有事の際に大きな力を発揮することは想像に難くありません。
地域への貢献が、企業と従業員を育てる
視点を変えれば、従業員が消防団のような地域の防災活動に参加することは、企業側にも大きなメリットをもたらします。災害対応の現場は、通常の業務では経験できない極限状況下での意思決定や、多様な背景を持つ人々との協働を経験する場となります。こうした経験を通じて培われるリーダーシップ、ストレス耐性、そして何より「自分たちの地域は自分たちで守る」という当事者意識は、非常に貴重なものです。
これは、企業がコストをかけて行うどんな研修よりも実践的な人材育成の機会となり得ます。また、従業員が地域の一員として活動することは、企業と地域社会との信頼関係を深め、結果としてサプライチェーンの維持や円滑な事業運営にも繋がる、無形の資産となるでしょう。
日本の製造業への示唆
このオーストリアの事例は、日本の製造業にとっても多くのヒントを与えてくれます。自然災害の多い我が国において、企業が存続し続けるためには、自社内での対策だけでなく、地域社会との連携が不可欠です。
1. BCP(事業継続計画)の実効性を高める
計画を策定するだけでなく、従業員が地域の防災活動へ参加することを推奨・支援することで、組織全体の危機対応能力を底上げできます。机上の訓練では得られない実践的な知見が、BCPに血を通わせます。
2. 人材育成の新たな視点
地域貢献活動を、単なるCSR活動としてではなく、次世代リーダーを育成するための重要な経験の場として位置づけることが可能です。想定外の事態に強い、しなやかな思考力を持つ人材が育つ土壌となります。
3. 地域共生によるレジリエンスの強化
工場は地域社会というエコシステムの一部です。平時から地域との連携を深めておくことは、災害時に助け合う関係性を築くだけでなく、従業員のエンゲージメント向上や安定した操業環境の確保にも繋がります。自社の存続基盤をより強固にするための、重要な経営課題と言えるでしょう。


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