一見、製造業とは無関係に思えるエンターテインメントの世界。しかし、新作ミュージカルの制作体制に関するニュースから、我々の製品開発や工場運営に通じる重要な示唆を読み取ることができます。本稿では、異業種のプロジェクトマネジメント手法を考察し、日本の製造業が学ぶべき点を探ります。
異業種に見る「プロダクション・マネジメント」の役割
ロンドンのウエストエンドでデビューする新作ミュージカル『Rosie』の制作陣に関する短い記事の中に、「プロダクション・マネジメント」という言葉が登場します。これは、作曲家の独創的なコンセプトに基づき、キャスティング、舞台装置、音響、照明といった多様な専門家チームを統括し、一つの完成された作品として市場に送り出すための管理機能です。この役割は、我々製造業におけるプロジェクトマネージャーや生産管理部門の業務と本質的に同じ構造を持っていると言えるでしょう。
製造業においても、新製品開発は、企画部門のコンセプトから始まります。そして、設計、開発、試作、部品調達、生産技術、製造、品質保証といった各分野の専門家が連携し、初めて一つの製品として形になります。プロダクション・マネージャーが、バラバラの専門技能を「ミュージカル」という一つのゴールに向けて束ねるように、製造業においても、各部門の活動を製品の市場投入という目標に向けて統合・調整する機能が不可欠です。
コンセプトから市場投入までの一貫した体制
今回の事例では、作曲家の「オリジナルコンセプト」が全ての起点となっています。この一つの核となるアイデアを、多くの専門家がそれぞれの持ち場で具体化していくプロセスは、製造業における「設計思想」や「製品コンセプト」を量産可能な製品へと落とし込んでいく流れと酷似しています。いかに優れたコンセプトがあっても、それを具現化する生産体制がなければ、製品は市場に出ることはありません。
日本の製造業は、部門間の緻密な連携、いわゆる「すり合わせ」を得意としてきました。しかし、組織の縦割り化が進んだり、あるいは開発と生産の拠点が物理的に離れたりすることで、部門横断的な連携が課題となるケースも少なくありません。ミュージカル制作のようなプロジェクトベースの体制では、プロダクション・マネージャーが強いリーダーシップを発揮し、各専門家間のコミュニケーションを円滑にし、全体の進捗を管理します。このような役割の重要性を、我々は改めて認識する必要があるのではないでしょうか。
日本の製造現場への応用
特に、新製品の立ち上げ(NPI: New Product Introduction)においては、この「プロダクション・マネジメント」の視点が極めて重要です。設計変更への迅速な対応、サプライヤーとの納期調整、製造ラインでの初期流動管理、品質の作り込みなど、多岐にわたる課題を同時並行で解決していかなければなりません。
そのためには、開発、生産技術、製造、品質、調達などの担当者からなるクロスファンクショナルチーム(CFT)の組成が有効です。そして、そのチームを率いるリーダーは、まさにミュージカルのプロダクション・マネージャーのように、技術的な知見だけでなく、コミュニケーション能力や調整力、そしてプロジェクト全体を俯瞰する視野が求められます。個々の専門性を尊重しつつも、組織全体の目標達成に向けてチームを導く、そのようなリーダーシップが、今日の複雑な製品開発において成功の鍵を握ると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、日本の製造業が再認識すべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. プロジェクトマネジメント機能の強化
新製品開発や大規模な設備投資など、部門横断的なプロジェクトにおいては、各部門の利害を調整し、全体最適を追求する強力なプロジェクトマネージャー(あるいはPMO)の役割が不可欠です。技術的な専門性だけでなく、マネジメント能力を兼ね備えた人材の育成が急務となります。
2. コンセプトを具現化する一貫したプロセスの重視
優れた製品コンセプトや設計思想も、製造現場で安定した品質とコストで具現化できなければ意味がありません。開発の初期段階から生産技術や製造、品質保証の担当者が関与し、量産を見据えた設計(DR: Design for Manufacturability)を徹底するプロセスを構築・維持することが重要です。
3. 異業種のベストプラクティスから学ぶ姿勢
製造業という枠の中だけで思考するのではなく、エンターテインメントやIT、建設など、他業界のプロジェクトマネジメント手法や組織運営から積極的に学ぶ姿勢が求められます。一見無関係に見える分野にこそ、自社の課題を解決するヒントが隠されている可能性があります。


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