金属積層造形(AM)、試作から量産へ – 高品質な金属粉末が拓く実用化への道

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金属積層造形(AM、いわゆる金属3Dプリンタ)は、長らく試作品や治具の製作が主な用途とされてきました。しかし近年、材料技術、特に金属粉末の進化により、最終製品の量産手段としての可能性が現実のものとなりつつあります。

金属AMの現状:試作から量産への移行

金属積層造形(AM)技術は、複雑形状の部品を一体で造形できる、金型が不要であるといった利点から、航空宇宙や医療分野を中心に活用が広がってきました。しかし、その多くは一点ものの試作品(プロトタイプ)や、生産ラインで用いる治具といった、少量生産の領域に留まっていたのが実情です。量産を考えた場合、造形速度、コスト、そして何よりも製品として求められる品質の安定性という点で、従来の製造方法に及ばない点が課題とされてきました。

しかし、この記事が指摘するように、その潮流は変わりつつあります。装置自体の性能向上はもちろんですが、その変化を裏側で支えているのが、材料である「金属粉末」の品質向上です。AMが試作のステージを越え、実際の生産ラインに組み込まれるためには、安定した品質の製品を、予測可能なコストと時間で造形し続ける「プロセスの安定性」が不可欠であり、その鍵を材料が握っているのです。

量産適用を左右する「金属粉末」の品質

金属AM、特に主流である粉末床溶融結合(PBF)方式では、敷き詰められた金属粉末の層にレーザーや電子ビームを照射して溶融・凝固を繰り返すことで立体物を造形します。このプロセスにおいて、粉末の特性が最終的な造形物の品質や生産性に直接的な影響を及ぼします。

元記事で触れられているEquispheres社のような先進的な材料メーカーは、特に以下の点に注力していると考えられます。

  • 粒子の球形度と均一性:粒子が真球に近く、サイズが揃っているほど、粉末層に緻密かつ均一に敷き詰めることができます。これにより、溶融時の熱伝導が安定し、内部欠陥(ポロシティ)の少ない、密度の高い造形物が得られます。
  • 流動性:粉末の流動性が高いと、リコーター(粉末を敷き詰めるブレード)による供給がスムーズに行われ、造形速度の向上に寄与します。また、薄い層厚での均一な敷き詰めが可能となり、より精細な造形にも繋がります。
  • 化学成分の清浄度:介在物や不純物の少ないクリーンな粉末は、材料本来の機械的特性(強度、延性、疲労特性など)を最大限に引き出すために不可欠です。

日本の製造現場では、「良いものづくりは、良い材料から」という考え方が深く根付いています。これは鋳造や鍛造、切削加工といった従来の工法と何ら変わりません。AMという新しい技術においても、出発点である材料の品質管理が、最終製品の品質を決定づけるという基本原則は同じであると言えるでしょう。

高品質な粉末がもたらす実務的なメリット

高品質な金属粉末を使用することは、単に「良いものができる」というだけでなく、工場運営の観点から見て、より具体的で実務的なメリットをもたらします。

第一に、生産性の向上です。良好な流動性を持つ粉末は、より高速な敷き詰めを可能にし、造形プロセス全体のサイクルタイム短縮に直結します。これは、時間あたり・装置あたりの生産量を高め、量産におけるコスト競争力を向上させる上で極めて重要な要素です。

第二に、品質の安定と歩留まりの改善です。均一な粉末は安定した溶融プロセスを実現し、造形不良の発生を抑制します。造形の失敗は、材料費、装置の稼働時間、後工程の人件費など、多岐にわたる損失を生みます。材料起因のばらつきを抑えることは、製造プロセス全体の安定化と歩留まり向上に貢献します。

そして第三に、後処理工程の削減です。緻密で表面品位の高い造形物は、後処理として行われる研磨や切削加工の工数を削減できる可能性があります。後処理はAMのコストとリードタイムを大きく左右する要因の一つであり、この工程を簡素化できる意義は大きいと言えます。

日本の製造業への示唆

今回の記事から、日本の製造業が金属AMを本格的な生産技術として活用していく上で、いくつかの重要な示唆を得ることができます。

  • 視点の転換:AMを「プロセス」として捉える
    AMの導入検討において、3Dプリンタという「装置」の仕様に目が行きがちですが、今後は材料である「金属粉末」の選定と管理を含めた、一連の「製造プロセス」として捉える視点が不可欠です。材料の特性が、品質・コスト・納期(QCD)のすべてに影響を及ぼすことを改めて認識する必要があります。
  • 材料管理体制の構築
    経営層や工場長は、AM技術への投資を判断する際、装置だけでなく、高品質な材料を安定的に調達するためのサプライチェーン構築や、工場内での粉末の品質管理(受け入れ検査、保管、湿度管理、再利用時の成分分析など)体制の構築も併せて計画に盛り込むべきです。特に粉末の再利用はコスト削減に有効ですが、品質劣化のリスクも伴うため、厳格な管理ルールが求められます。
  • 技術者の役割:材料への深い理解
    現場の技術者やリーダーは、使用する粉末の特性が造形パラメータ(レーザー出力、スキャン速度など)や最終製品の機械的特性にどのように影響するかを深く理解することが求められます。材料メーカーと密に連携し、材料のポテンシャルを最大限に引き出すプロセス条件を見つけ出すことが、AM技術を使いこなす上での鍵となるでしょう。これは、従来の工法で培われてきた材料技術の知見が活かせる領域でもあります。

金属AMは、もはや夢の技術ではなく、現実的な生産手段の一つとなりつつあります。その成否は、いかに優れた材料を選び、使いこなすかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。

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