英国の製造技術センター(MTC)の専門家が、ロボット活用による持続可能な製造システムについて議論しました。本稿ではその内容を掘り下げ、従来の生産性向上という視点に加え、エネルギー効率や資源活用といったサステナビリティの観点からロボット導入の意義を再考します。
はじめに:ロボット活用の新たな視点
英国の製造技術研究を牽引するManufacturing Technology Centre (MTC) の専門家が、ロボット技術が製造業のサステナビリティ(持続可能性)向上にどう貢献できるか、というテーマで議論を行いました。これまで日本の製造現場におけるロボット導入は、主に人手不足への対応、生産性の向上、品質の安定化といった文脈で語られてきました。しかし、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーへの対応が経営上の重要課題となる中、ロボット活用を「サステナビリティ」という新たな軸で捉え直す必要性が高まっています。
エネルギー効率の最適化
製造業にとって、エネルギーコストの削減は常に重要な経営課題です。ロボットは、この課題に対して直接的に貢献できる可能性があります。例えば、ロボットはプログラムに従って正確かつ無駄のない動作を繰り返すため、人間が行う作業に比べてエネルギー消費を抑えた最適な動作設計が可能です。また、生産設備の稼働状況をセンサーで監視し、ロボットが最適なタイミングで装置の起動・停止を行うことで、待機電力などの見えにくい無駄を削減することもできます。特にエネルギー多消費型の工程において、ロボットによる精密なプロセス制御は、工場全体のエネルギー効率改善に大きく寄与するでしょう。
資源の有効活用と廃棄物の削減
歩留まりの向上は、資源の有効活用と廃棄物削減に直結します。産業用ロボットは、その高い繰り返し精度により、加工や組立における品質のばらつきを抑制し、不良品の発生を大幅に削減します。さらに、AIを搭載した画像認識システムとロボットを組み合わせることで、従来は熟練者の目に頼っていた微細な欠陥をインラインで検出し、後工程への流出を防ぐことも可能です。これにより、材料の無駄だけでなく、不良品を手直ししたり廃棄したりするために費やされていたエネルギーや工数も削減され、製造プロセス全体の資源効率が高まります。
リマニュファクチャリングとサーキュラーエコノミーへの貢献
製品の長寿命化や資源循環を目指すサーキュラーエコノミーの実現に向けて、使用済み製品の分解、洗浄、修理、再組立を行う「リマニュファクチャリング(再製造)」が注目されています。しかし、多種多様な状態の使用済み製品を扱う作業は標準化が難しく、人手への依存度が高いのが実情です。ここにロボット技術を適用することで、困難だった分解・分別作業の自動化が期待できます。例えば、製品の3Dモデルと実物をAIで照合しながら、ロボットが最適な手順で部品を取り外すといった先進的な取り組みも研究されています。こうした技術は、サーキュラーエコノミーへの移行を加速させる上で重要な役割を担うと考えられます。
労働環境の改善と持続可能な人的資本
サステナビリティは、環境側面だけでなく、社会側面、特に働く人々の環境も含まれます。重量物の搬送、高温環境での作業、有害物質の取り扱いといった、いわゆる3K(きつい、汚い、危険)作業をロボットに代替させることは、従業員の安全衛生を確保し、働きがいのある職場環境を構築する上で不可欠です。労働人口の減少が続く日本において、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整えることは、企業の持続的な成長を支える人的資本の観点からも極めて重要です。
日本の製造業への示唆
今回の議論から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。
1. 投資対効果(ROI)の多角的な評価
ロボット導入を検討する際、人件費の削減効果だけでROIを算出するのではなく、エネルギーコストの削減、廃棄物削減による原材料費の低減、さらにはESG評価の向上といった、より広い視野でその価値を評価することが求められます。これらの要素を定量的に評価する新たな指標づくりも必要になるでしょう。
2. データに基づいたプロセス改善
ロボットや各種センサーから得られる稼働データを収集・分析し、どの工程でエネルギーや資源の無駄が生じているかを可視化することが第一歩です。データに基づいた継続的なカイゼン活動にロボット技術を組み込むことで、サステナビリティの取り組みを加速させることができます。
3. 「守りの自動化」から「攻めのサステナビリティ」へ
人手不足を補うための「守りの自動化」という発想から一歩進み、環境負荷を低減し、企業価値を高めるための「攻めのサステナビリティ」を実現する手段として、ロボット活用を戦略的に位置づける視点が経営層には求められます。
4. 技術の融合
ロボット単体だけでなく、AI、IoT、シミュレーション技術などを組み合わせることで、その効果は飛躍的に高まります。自社の課題解決に最適な技術は何かを見極め、外部の知見も積極的に活用していく姿勢が重要です。


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