英国の高級自動車メーカーであるベントレー・モーターズが、事業活動において100%持続可能な航空燃料(SAF)の活用を約束したと報じられました。自動車メーカーがなぜ航空燃料なのか、この一見意外な取り組みの背景には、日本の製造業が学ぶべき重要な視点が隠されています。
自動車メーカーによる「持続可能な航空燃料(SAF)」の導入
英国の高級車メーカー、ベントレーは、同社の事業活動における燃料として「持続可能な航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)」を100%活用することを発表しました。具体的には、英国クルーにある本社工場の敷地内に専用の貯蔵施設を設置し、社内の非道路輸送や事業に関連する航空移動などにこのSAFを利用していく計画です。
SAFは、廃食油や非食用の植物、都市ごみなどを原料として製造されるバイオ燃料の一種です。従来の化石燃料由来のジェット燃料と比較して、ライフサイクル全体でのCO2排出量を最大80%程度削減できるとされており、航空業界における脱炭素化の切り札として期待されています。自動車メーカーであるベントレーが、このSAFを自社の陸上輸送や事業活動に活用するという点は、非常に示唆に富んでいます。
Scope 1, 2, 3で捉える事業活動全体の脱炭素
「なぜ自動車メーカーが航空燃料を?」という疑問が湧くかもしれません。この取り組みの背景には、自社が排出する温室効果ガスをサプライチェーン全体で捉える「Scope 1, 2, 3」という考え方があります。
- Scope 1: 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
- Scope 2: 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
- Scope 3: Scope 1, 2以外の間接排出(原材料の調達・輸送、従業員の出張、製品の使用・廃棄など)
ベントレーの取り組みは、自動車(製品)の電動化だけでなく、工場のオペレーションや物流といった自社の事業活動(Scope 1やScope 3の一部)から排出されるCO2を削減するための具体的な一手です。日本の製造業においても、自社工場の省エネや再生可能エネルギー導入(Scope 1, 2)は進んできましたが、今後は物流、出張、サプライヤーからの調達など、より広範なScope 3領域での排出量削減が大きな課題となります。今回の事例は、既存の技術や燃料の中から、自社の活動に適用可能なものを柔軟に探し出し、活用していく姿勢の重要性を示しています。
経営戦略と一体化したサステナビリティ
このSAF導入は、ベントレーが掲げる「Beyond100」という経営戦略の一環です。この戦略は、2030年までに販売する全車両を電気自動車(EV)に移行し、研究開発から製造、サプライチェーンに至るまで、事業のあらゆる側面でカーボンニュートラルを達成することを目指す壮大な計画です。つまり、環境対応を単なるCSR活動やコスト要因としてではなく、持続的な成長を実現するための経営戦略の中核に据えているのです。
製品そのものの環境性能を高めることはもちろん重要ですが、それと同じく、製品が作られ、顧客に届けられるまでの全プロセスにおける環境負荷をいかに低減していくか。この包括的な視点こそが、これからの製造業に求められる姿と言えるでしょう。環境対応は、もはや企業の社会的責任という側面だけでなく、顧客や投資家、さらには優秀な人材から選ばれるための必須条件となりつつあります。
日本の製造業への示唆
今回のベントレーの事例は、日本の製造業、特に経営層や工場運営、サプライチェーン管理に携わる方々にとって、以下の点で重要な示唆を与えてくれます。
1. 事業活動全体のCO2排出量の可視化と削減目標の設定:
自社製品の環境性能だけでなく、工場で使うエネルギー、部品や材料の輸送、従業員の移動など、事業活動全体のカーボンフットプリントをScope 1〜3の枠組みで正確に把握することが第一歩です。その上で、科学的根拠に基づいた削減目標(SBTなど)を設定し、具体的なアクションプランに落とし込む必要があります。
2. 既成概念にとらわれない代替技術・燃料の活用検討:
SAFの事例が示すように、他業種で開発された技術や代替エネルギーが、自社の課題解決に応用できる可能性があります。自社の事業内容や地域特性に合わせて、バイオマス燃料、水素、合成燃料(e-fuel)など、利用可能な選択肢を常に模索し、試験導入を検討する積極的な姿勢が求められます。
3. サステナビリティを経営戦略の中核に:
環境対応を「守りの一手」と捉えるのではなく、新たな事業機会の創出や企業価値向上につながる「攻めの一手」として、長期的な経営戦略に組み込むことが不可欠です。サプライヤー選定の基準に環境への貢献度を加えたり、脱炭素を軸とした新たな製品・サービス開発を進めたりするなど、事業全体で取り組むべきテーマです。


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