一見、製造業とは無関係に思えるデジタルエンターテイメント業界の成功事例から、我々の事業を見つめ直すヒントが得られることがあります。あるスタジオの躍進の背景には、「構造化された生産管理」と「創造的なストーリーテリング」の組み合わせがあり、これは日本の製造業が持つ強みと今後の課題を映し出しています。
はじめに:異業種から自社の強みを再発見する
私たちは日々の業務の中で、どうしても自社の業界の常識や慣習にとらわれがちです。しかし、時に全く異なる分野の成功事例に目を向けることで、自社の事業の在り方や潜在的な強みを再認識するきっかけを得ることがあります。今回ご紹介するのは、デジタルエンターテイメントという、変化の激しい業界における成功要因に関する短い記事ですが、その中には日本の製造業にとっても重要な示唆が含まれていると考えられます。
成功の核心は「生産管理」と「創造性」の両立
元記事によれば、あるエンターテイメントスタジオが競争の激しい市場で確固たる地位を築いている要因は、「構造化された生産管理(structured production management)」と「創造的なストーリーテリング(creative storytelling)」の巧みな組み合わせにあるとされています。この二つの要素は、そのまま製造業の言葉に置き換えることができます。
「構造化された生産管理」とは、まさに私たちが日々取り組んでいる品質管理(QC)、納期管理、コスト管理、そして効率的な生産プロセスそのものを指します。計画通りに、安定した品質のものを、定められたコストで作り上げる能力は、日本の製造業が長年にわたり磨き上げてきた、世界に誇るべき中核的な強みと言えるでしょう。
製造業における「ストーリーテリング」とは何か
一方で、「創造的なストーリーテリング」とは何でしょうか。これは単なる製品の宣伝文句ではありません。製品が顧客にもたらす本質的な価値や体験、開発に込められた思想、あるいはその製品を使うことで顧客の日常がどう豊かになるか、といった「物語」を構想し、伝える力と解釈することができます。
例えば、ある工作機械の圧倒的な加工精度という「事実」は、生産管理の賜物です。しかし、その精度が顧客の製品の品質をいかに向上させ、最終的に社会にどのような貢献をもたらすのかという「物語」を語ること。これが製造業におけるストーリーテリングです。優れた技術や品質も、この物語と結びついて初めて、顧客にとって代替の効かない強い価値として認識されるのです。
「組み合わせ」こそが競争力の源泉
元記事が強調しているのは、この二つの要素の「組み合わせ(combination)」が重要であるという点です。これは製造業の現場においても極めて重要な視点です。
いかに高度で効率的な生産体制を構築しても、市場や顧客の心を動かす価値(ストーリー)を持つ製品でなければ、価格競争に巻き込まれ、やがてはコモディティ化してしまいます。逆に、どれだけ魅力的な製品コンセプトを掲げても、それを安定した品質と適切なコストで量産できる生産能力がなければ、事業として成立させることはできません。開発・設計部門が描く「物語」と、生産現場が持つ「管理能力」。この二つが車の両輪として機能して初めて、持続的な競争力が生まれるのです。
日本の製造業への示唆
この異業種の事例から、私たちは以下の点を改めて考えることができるでしょう。
1. 自社の強みの再定義
まず、自社が長年培ってきた「構造化された生産管理能力」という揺るぎない強みを再認識することが重要です。その上で、その強みを最大限に活かすための「物語」、すなわち顧客への提供価値とは何かを、開発から営業まで全部門で問い直す必要があります。
2. 部門横断での「物語」の共有
製品のコンセプトや提供価値という「物語」は、一部の部門だけが理解するものであってはなりません。設計者が込めた想いを製造現場が理解し、製造現場の工夫や品質へのこだわりを営業担当が顧客に語る。このような一貫した価値の連鎖を、組織として作り上げる仕組みが求められます。
3. 技術を価値として伝える力
私たちの持つ優れた技術やノウハウは、それ自体が価値の源泉です。しかし、それを単なるスペックやデータとして提示するだけでなく、顧客の課題解決や未来の可能性に繋がる「物語」として翻訳し、伝えていくコミュニケーション能力の重要性は、今後ますます高まっていくと考えられます。


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