多くの製造業が人手不足という共通の課題に直面しています。その根底には、製造現場に対する古いイメージが未だに根強く残っているという問題があります。本稿では、米国の製造業向けメディアで語られた、製造業の魅力を「再定義」し、次世代の人材を惹きつけるための考え方について解説します。
はじめに:国内外で共通する人材確保の課題
昨今、日本の製造業において、人材の確保と定着は経営における最重要課題の一つとなっています。特に、若年層の確保が年々難しくなっていると感じておられる経営者や工場長の方も少なくないでしょう。この問題は日本特有のものではなく、製造業を抱える多くの国で共通の悩みとなっています。米国の製造業向けメディア「ASSEMBLY」のポッドキャストでは、精密部品メーカーであるツバキ・ナカシマ社の米国法人で事業部長を務めるナシェイ・ネーブ氏が、この課題に対する鋭い洞察を語っています。
時代遅れのイメージという「見えない壁」
ネーブ氏が指摘するのは、製造業が依然として「暗い、汚い、危険」といった、いわゆる3Kのイメージを持たれがちであるという点です。これは、日本の我々にとっても長年耳にしてきた、そして払拭に努めてきた課題ではないでしょうか。しかし、実際の製造現場は、FA(ファクトリーオートメーション)やロボット技術の導入、徹底した5S活動、デジタル技術の活用により、かつての姿から大きく変貌を遂げています。多くの工場は、今やクリーンで安全、そして高度な技術が集積するインテリジェントな空間となっています。問題の核心は、この「実態」と世間一般に持たれている「イメージ」との間に、大きな隔たりが存在することなのです。
「リフレーミング」:仕事の価値を再定義し、発信する
このギャップを埋めるためにネーブ氏が提唱するのが、「リフレーミング(Reframing)」という考え方です。これは単に「イメージアップ」や「広報活動の強化」といった言葉に留まりません。製造業という仕事の本質的な価値や魅力を、現代の、特に若い世代の価値観に合わせて捉え直し、彼らに響く言葉や方法で伝えていくという、より積極的で戦略的なアプローチを意味します。
例えば、単に「ものをつくる仕事」と説明するのではなく、「最先端のロボットやAIを駆使して、人々の生活に欠かせない製品を生み出す、テクノロジーの現場」と表現する。あるいは、「単純作業の繰り返し」という誤解に対し、「品質改善や生産性向上といった課題をチームで解決していく、知的な挑戦の場」であることを示す。このように、仕事の価値を再定義し、魅力的な物語として語ることが求められます。そこには、自社の仕事が社会にどう貢献しているのか、どのようなキャリアパスを描けるのか、といった視点も不可欠です。こうした取り組みは、求職者だけでなく、既存の従業員のエンゲージメントを高める効果も期待できるでしょう。
次世代の心をつかむための具体的なアプローチ
リフレーミングを実践する上で、ターゲットとなる若い世代が何を求めているのかを理解することが重要です。彼らは、単に給与や待遇だけでなく、仕事の目的意識(Purpose)、自己成長の機会、多様性を受け入れる企業文化、そしてワークライフバランスを重視する傾向があります。
具体的な行動としては、地域の学校と連携した工場見学やインターンシップの受け入れが挙げられます。百聞は一見に如かず、実際のクリーンでハイテクな工場をその目で見てもらうことは、どんな言葉よりも強く古いイメージを覆す力を持っています。また、現場で活躍する若手技術者を主役にした情報発信や、SNSなどを活用したカジュアルなコミュニケーションも、親近感を持ってもらう上で有効な手段となり得ます。
日本の製造業への示唆
今回の提言は、米国の事例ではありますが、その本質は日本の製造業が直面する課題と完全に一致しています。人手不足を単なる労働市場の問題として捉えるのではなく、自社の魅力が社会に正しく伝わっていない「コミュニケーションの課題」として捉え直すことが、解決への第一歩となるでしょう。
要点の整理:
- 製造業の人材不足の根底には、実態と乖離した古い固定観念が存在する。
- この課題を克服するためには、製造業の仕事の価値を現代の価値観に合わせて「リフレーミング(再定義)」し、積極的に発信する必要がある。
- 特に、①先進技術が集まる現場であること、②多様なキャリアパスが開かれていること、③社会に貢献できる仕事であること、を伝えるのが重要である。
実務への示唆:
- まずは自社の工場の強みや魅力を、従業員を交えて客観的に洗い出し、言語化・視覚化することから始めてみてはいかがでしょうか。
- 採用活動において、地域の学校や教育機関との関係を構築し、未来の担い手である学生に現場を見せる機会を設けることは、長期的な視点で非常に有効です。
- 経営層から現場のリーダーまで、「我々の仕事の魅力を、我々自身が語る」という意識を共有することが、持続的な人材確保と、従業員の誇りを育む土壌を築くことにつながります。


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